最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

8

(火事……!?)





「どこに火を放った!?」





 ナーディアは、フェリーニ侯爵を揺さぶって問い詰めた。ジャンニが、押し止める。





「逃げる方が先だ! 俺は、ロベルト様をお連れする」





 言いながら彼は、早くもロベルトを抱え起こそうとしている。





「お前……、腹の傷が……」



「いいから! ナーディアは、他の皆に知らせて来い!」





 脚の不自由なロベルトを、ジャンニはおぶって逃げるつもりのようだ。ナーディアは、急いで部屋を飛び出すと、使用人たちに叫んで回った。





「火事だ! 放火された。火元はわからないが、とにかく逃げて!」





「何だって!?」





 皆が、慌てふためく。執事の先導で、彼らは一斉に逃げ始めた。そこでナーディアは、ハッと気付いた。





(フローラ姉様!)





 彼女の部屋は、奥まっている。煙やこの騒ぎに、気付かないのではないか。ナーディアは、大急ぎで飛んで行った。





「姉様! 火事です!」





 姉の部屋の扉をバンと開けて、わめく。フローラは、鏡台の前に腰かけていたが、驚いたように振り返った。





「火事ですって?」



「そうです。早く逃げてください!」



「そう言えば、何か匂うわね」





 フローラは怯えたように頷くと、ドレスの裾をつまんで立ち上がった。





「早く、一緒に……」





 彼女を先導しようと、背を向けたその時だった。ナーディアは、後頭部に鈍い衝撃を覚えた。何が起きたのかわからないまま、倒れ込む。





「姉様……?」



 



 かろうじて振り返れば、そこには花瓶を手にしているフローラの姿があった。





「火事、ちょうどいいじゃない」





 歌うように、フローラが言う。





「ロレンツォ様に愛されなきゃ、生きてたって意味がないもの。……でも」





 痛みにうめくナーディアの髪を、フローラが引っつかむ。





「一人で逝くのは嫌よ。あなたも道連れになってちょうだい」





「姉様……」





「ロレンツォ様と結婚ですって? 絶対許さないわ」





 フローラがわめく。





「マリーノも、役に立たないわね! ナーディアを殺せと言ったのに、どうしてロレンツォ様を狙うのよ!」





 ナーディアは、愕然とした。





(フローラ姉様は、私を殺すようマリーノに言ったのか……?)





「どうして、あなたが生きて幸せになるのを、私が指をくわえて見てなきゃいけないの。あなたは、私より常に下でいるべきなのよ!」
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