最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる
最終章 待望の手合わせ

1

 その日ナーディアは、オルランドに礼を述べに行った。





「何から何まで、お世話になりました。本当に、ありがとうございました」





 あの後ナーディアは、フローラに殴られた傷と、煙を吸ったことによる喉の痛みのため、しばしの療養が必要になった。腹の傷が開いたジャンニも同様である。とはいえモンテッラ邸は、修復不可能なほど焼け落ちてしまった。そこでオルランドは、二人のために、王宮内に臨時の部屋を用意してくれたのである。





「クーデターの功労者二人のためだ。これでもまだ、し足りないくらいだ」





 オルランドは、あっさり答えた。





「ところで、せっかくモンテッラ殿に結婚の許しを得たというのに、式も挙げないつもりか? 援助なら、いくらでもしてやるぞ?」





 名誉回復の一環として、ジャンニは爵位だけでなく、領地と屋敷も取得した。体調が回復したら、二人はそこで新生活を始める予定である。だが、結婚式を執り行うつもりはない。婚姻許可証を得るに、とどめるつもりだ。





「もしや……、フローラ嬢のことを気にしているのか?」





 オルランドが、眉をひそめる。あの火事で、ロベルトはジャンニに連れ出されて無事だった。使用人たちも全員助かり、さらには駆け付けた救助隊により、フェリーニ侯爵とフローラも救出されたのだが……。





 フェリーニ侯爵は、程なくして亡くなった。フローラは、一命は取り留めたものの、顔に大火傷を負ったのだ。かつて『ラクサンドのネモフィラ』と歌われた美貌は、見る影もなくなった。ジャンニとの婚約解消後、新たな結婚話も持ち上がったのだが、フローラの火傷のことを知ったとたん、皆そろって撤回した。もう嫁のもらい手はないだろうと、ロベルトはフローラを修道院へ入れるつもりらしい。





「それも、ありますが……。私はまず、新国王陛下の結婚式に、尽力を尽くしたいと思っておりますので」





 オルランドに心配をかけまいと、ナーディアはにっこりして見せた。即位式を終えたオルランドは、シリステラのエレオノーラ王女を王妃に迎えるのである。同盟維持のための一手段と説明はしているが、案外まんざらでもないのだろう、とナーディアは踏んでいた。
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