最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

5

「ナーディア、貴様……。兄に向かって、その口の利き方は何だ!」





 一番触れて欲しくないところに触れられたからだろう。コルラードの顔は、怒りに歪んだ。





 ナーディアたちの父ロベルトは、五年前に脚を負傷したのがきっかけで、王立騎士団を退団した。モンテッラ侯爵としての務めは、まだどうにかこなしているが、健康は思わしくないというのが正直なところだ。そこで、早めにコルラードに爵位を譲ろうと、今から少しずつ引き継ぎをしているらしいのだが。あいにくコルラードには、仕事の能力もなかったようだ。父は日々苛つき怒っている、とナーディアはフローラから聞かされていた。





(お母様も、もういらっしゃらないことですしね……)





 母は、息子コルラードを猫可愛がりし、何かと言えば庇っていた。だが彼女は、三年前病死したのである。





「二人とも、もう止してちょうだい」





 さすがに見かねたのか、フローラが間に入る。





「先にナーディアに暴言を吐いたのは、兄様ですわ。でも、ナーディアも言い過ぎよ。だから、ここは両成敗ということで、いいのではなくて?」



「……わかりました。申し訳ありません」





 フローラを板挟みにはしたくない。ナーディアは、素直に謝った。本来なら、ここまでコルラードに突っかかるつもりはなかったのだが。なぜだか今日は、気分がささくれ立っていたのだ。





「……ふん」





 コルラードは、謝りはしなかったが、それ以上言い募ることはしなかった。そのまま踵を返し、会場の雑踏に紛れていく。ナーディアとフローラは、思わず顔を見合わせていた。





「コルラード兄様も、いい加減、コンプレックスから解放されてくださらないかしら」





 フローラがため息交じりに言う。ええ、とナーディアは頷いた。





「全くです。私の周りには、世話の焼ける男が多すぎです」



「……ああ」





 オルランドのこととわかったのだろう、フローラはクスリと笑った。
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