最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

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「は? そんなの、人それぞれだろ」





 唐突な質問に、ナーディアはきょとんとした。





「そりゃまあ、そうだろうけど……。でも、ナーディアは違うだろ? 男の基準は、強さなんだよな?」



「何で急に、そんな……。あ」





 ナーディアは、ハッと気付いた。





「もしかして、オルランド殿下から聞いたのか?」



「……まあ、そうだ」



「あんの野郎……。何、ベラベラ喋ってんだよ……」





 相手が(あるじ)、しかも王太子という事実も忘れ、ナーディアはつい毒づいた。マリーノが、慌てたように付け加える。





「殿下は、別にあちこちで言いふらされてるわけじゃないぞ? 俺にだけ、こっそり教えてくださったんだ」



「……? 何でまたお前にだけ?」





 腑に落ちずに首をひねっていると、マリーノは深いため息をついた。





「いいよ、もう……。取りあえず俺は、剣の腕を磨くさ。お前やロレンツォに引けを取らないように」



「それはいいことだ」





 ナーディアは、うんうんと頷いた。





「さっきはああ言ったけれど、もちろん剣術も、騎士の基本だからな。頑張れよ!」





 激励の意味を込めて背中を叩けば、マリーノは逆に意気消沈した様子だった。





「いい加減、気付けよ……」



「……? 何が?」



「何でもない。じゃ、また明日、調練でな!」





 お先、とマリーノが寮へ駆け込んで行く。揺れる赤毛を見つめながら、ナーディアは今日の舞踏会のことを思い出していた。





 コルラードは相も変わらず全敗で、ふてくされて帰って行った。フローラは真逆に、ひっきりなしにダンスの申し込みを受けていたが、一番注目されたのはロレンツォと踊った時だった。





 ロレンツォは、ダンスの腕前も抜群だったのだ。ステップはキレがある一方で、嫌味なく上手に女性をリードしていく。彼とのダンスを心地良く感じているのは、フローラの表情から明らかだった。





(まさか、とは思うけれど……)





 ナーディアの『まさか』は現実となった。舞踏会から十日後、ロレンツォとフローラは婚約が決まったのだ。
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