最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

3

「……あ、ナーディアだって踊る側で参加すれば、きっと競争率は高いと思うぞ?」





 オルランドは、慌てたように言った。どうやら、ナーディアのため息の意味を誤解したらしい。





「ご冗談を」



「冗談なものか。フローラ嬢とナーディアは、そっくりなんだから」





 確かに、黒髪とブルーの瞳は、フローラとナーディアに共通するものだ。ついでに言えば、父と兄にも。これは、モンテッラ家の特徴とも言えるものである。そしてオルランドが言う通り、姉妹は顔立ちもよく似ている。





(でも、姉様と私は、全然違うわ)





 ナーディアは、内心思った。まずは、肌。ナーディアのそれは、長年の野外訓練のせいで、色濃く焼けてしまった。そして、髪は同じ黒髪でも、動きやすいようにと耳の下で切りそろえている。おまけに鍛え上げた体は、筋肉が付きまくった、ときた。自分には色気の欠片もない、とナーディアは信じ込んでいる。





「本当だぞ?」





 ナーディアの内心に気付いたのか、オルランドは念を押すように言った。





「自覚がないだけで、ナーディアは美人だよ。その気になれば、いくらでも男が寄って来るだろうに、もったいない」





 長旅を終えて気が緩んでいるのか、オルランドのお喋りは止まらなかった。





「好きに恋愛すれば? もういいじゃないか、母上もお亡くなりになったことだし」





 オルランドの眼差しは、いつしか真剣なものに変わっていた。そこからは、セクハラめいた意図は感じられない。純粋に、家臣を思っての言葉に聞こえる。だがナーディアは、きっぱりとかぶりを振った。





「いえ。王妃様とのお約束は、守るつもりですから」





 一年前、オルランドの専属護衛となった時、ナーディアはオルランドの母、つまり王妃とこんな約束を交わしたのだ。





『独身を通すこと。のみならず、純潔を守り通すこと』





 それを破れば、護衛は辞めてもらうと言われた……。
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