最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる
5
「なぜそんなことを聞くんだ?」
「――いや、何でもない」
言いながらロレンツォは立ち上がった。
「何か食うか? ……といっても、菓子の類はないな。すまん、せっかく来てくれたのに」
「ああ、それなら気にするな。私は、甘い物が苦手なんだ」
「俺も同じだ。気が合うな」
ロレンツォは、愉快そうに笑った。
「居酒屋で酒をかっくらっている方が、好きなんだよな……。女らしくないと、兄にはよくからかわれる」
からかうというよりは、もっとねちっこい言い方だが。モンテッラ家に悪い印象を持って欲しくなくて、ナーディアはあえて軽い言い方をした。
「コルラード殿といえば、舞踏会では挨拶しそびれたな。途中から、お姿が見えなくなってしまって」
ロレンツォは、ふと眉をひそめた。出席していた令嬢たちに片っ端から袖にされ、ふてくされたコルラードは、途中で雲隠れしたのだ。どうせ、煙草でも吸いに行っていたのだろうが。
「コルラード殿は、まだご婚約の予定はないのだろうか?」
ロレンツォが尋ねる。あれば苦労しない、とナーディアはひそかに思った。
「残念ながらね……。というかロレンツォ、さっきから何だ? 男ばかりに興味を示して。もしや、男色か?」
ナーディアのからかいに、ロレンツォも乗ってきた。大げさに、肩をすくめる。
「実は、そうなんだ」
「そりゃ大変だ。フローラ姉様が、気の毒なことだ」
「冗談だよ。俺が好きなのは、女だ。……男勝りで、さばけた性格の女が好きだな」
おや、とナーディアは思った。いかにも女性らしいフローラとは、真逆ではないか。
(ああ、そうか)
ナーディアは、合点して頷いた。
「それも、冗談だろ? お茶目な奴だな」
「……ああ」
ロレンツォは頷いたが、一瞬間が空いた気がした。だがナーディアは、深く気にせず席を立った。ロレンツォと話すのが意外に楽しかったせいで、ずいぶん長居してしまった。休日とはいえやるべき仕事はあるし、終わったら自主練もしたい。
「話せて、よかった。そろそろ失礼する」
「こちらこそ。お祝いを、ありがとう。何だろう? 楽しみだな」
ロレンツォは、箱を大切そうに抱き抱えた。
「我々騎士の、必需品だ。遠慮なく、すり切れるまで使ってくれ」
中身は、ベルトである。真面目に鍛錬すればするほど、すぐに劣化するものだ。何本あってもいいだろう、という実用的な観点で選んだ品である。
「じゃあな」
意気揚々と、ナーディアはロレンツォの部屋を出た。そんな彼女の背中を見つめながら、ロレンツォは小さく呟いた。
「どうして、本音を言っちまったかな……」
だがその微かな声は、ナーディアの耳に届くことはなかった。
「――いや、何でもない」
言いながらロレンツォは立ち上がった。
「何か食うか? ……といっても、菓子の類はないな。すまん、せっかく来てくれたのに」
「ああ、それなら気にするな。私は、甘い物が苦手なんだ」
「俺も同じだ。気が合うな」
ロレンツォは、愉快そうに笑った。
「居酒屋で酒をかっくらっている方が、好きなんだよな……。女らしくないと、兄にはよくからかわれる」
からかうというよりは、もっとねちっこい言い方だが。モンテッラ家に悪い印象を持って欲しくなくて、ナーディアはあえて軽い言い方をした。
「コルラード殿といえば、舞踏会では挨拶しそびれたな。途中から、お姿が見えなくなってしまって」
ロレンツォは、ふと眉をひそめた。出席していた令嬢たちに片っ端から袖にされ、ふてくされたコルラードは、途中で雲隠れしたのだ。どうせ、煙草でも吸いに行っていたのだろうが。
「コルラード殿は、まだご婚約の予定はないのだろうか?」
ロレンツォが尋ねる。あれば苦労しない、とナーディアはひそかに思った。
「残念ながらね……。というかロレンツォ、さっきから何だ? 男ばかりに興味を示して。もしや、男色か?」
ナーディアのからかいに、ロレンツォも乗ってきた。大げさに、肩をすくめる。
「実は、そうなんだ」
「そりゃ大変だ。フローラ姉様が、気の毒なことだ」
「冗談だよ。俺が好きなのは、女だ。……男勝りで、さばけた性格の女が好きだな」
おや、とナーディアは思った。いかにも女性らしいフローラとは、真逆ではないか。
(ああ、そうか)
ナーディアは、合点して頷いた。
「それも、冗談だろ? お茶目な奴だな」
「……ああ」
ロレンツォは頷いたが、一瞬間が空いた気がした。だがナーディアは、深く気にせず席を立った。ロレンツォと話すのが意外に楽しかったせいで、ずいぶん長居してしまった。休日とはいえやるべき仕事はあるし、終わったら自主練もしたい。
「話せて、よかった。そろそろ失礼する」
「こちらこそ。お祝いを、ありがとう。何だろう? 楽しみだな」
ロレンツォは、箱を大切そうに抱き抱えた。
「我々騎士の、必需品だ。遠慮なく、すり切れるまで使ってくれ」
中身は、ベルトである。真面目に鍛錬すればするほど、すぐに劣化するものだ。何本あってもいいだろう、という実用的な観点で選んだ品である。
「じゃあな」
意気揚々と、ナーディアはロレンツォの部屋を出た。そんな彼女の背中を見つめながら、ロレンツォは小さく呟いた。
「どうして、本音を言っちまったかな……」
だがその微かな声は、ナーディアの耳に届くことはなかった。