最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

6

 三日後の夜、ナーディアは団長のザウリから外出許可を得て、モンテッラ家へ帰った。出迎えた、幼少時代から馴染みの執事は、ナーディアを見て顔をほころばせた。





「お久しぶりでございます、ナーディアお嬢様。フローラ様が、お待ちかねでございますよ」





 お嬢様と呼ばれるのは、何だかくすぐったい。男扱いされることに、慣れきってしまっているのだろう。





「お父様とコルラード兄様は?」



「コルラード様は外出なさっています。旦那様は、ただ今来客中でして……。フェリーニ侯爵と、ダリオ様がお見えなのです。フローラ様のご婚約の関係で、いろいろとお打ち合わせがあるようで」





 コルラードの不在に安堵するのと同時に、ナーディアは心が浮き立つのを感じた。フェリーニ侯爵の長男ダリオは、幼なじみだが、会うのは久々なのだ。先日の宮廷舞踏会でも、結局話せずじまいだった。





「お打ち合わせの邪魔をしては悪いな。お二人へのご挨拶は後ほどにして、先にフローラ姉様のお部屋へ伺おう」





 ナーディアは遠慮したが、執事はいえいえとかぶりを振った。





「説明不足ですみません。旦那様とお話しなさっているのは、侯爵お一人でして。ダリオ様は、応接間でお待ちです。ナーディア様に、お話があるのだとか。どうぞ、行って差し上げてください」



「ダリオが私に?」





 フローラの婚約絡みの用で来たのではないのか。話の内容は検討がつかないものの、取りあえずナーディアは、応接間へと向かった。だが途中で思い直し、自室へと足を向ける。ダリオにプレゼントしようと思いつつ、渡しそびれている書物があるのだ。本当は、前回この屋敷へ帰った際、寮へ持って帰る予定だった。だが、コルラードと大げんかをして急遽屋敷を飛び出したため、持ち帰り忘れてしまったのだ。





 ナーディアは自室へ入ると、今度こそ本を手にした。そこから応接間へ向かう途中には、父の書斎がある。中からは、ぼそぼそと男たちの話し声がした。父と、フェリーニ侯爵だろう。聞くつもりはなかったナーディアだったが、ちょうど部屋の前を通り抜けようとした時、こんな言葉が聞こえてきた。





「やはり君は、エメリアを忘れていなかったのだな……」





 父ロベルトの声だった。
< 33 / 200 >

この作品をシェア

pagetop