最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

9

「……そんな顔しないで」





 ナーディアの微妙な表情に気付いたのか、ダリオはくつくつと笑った。





「突然弟ができたフェリーニ家の長男は、一体どう思っているのか。そう考えてるんだろう?」



「ダリオは何でもお見通しねえ」





 二番目の懸念は伏せて、ナーディアは苦笑した。





「そりゃ、驚くには驚いたけれど。でも、一方で腑に落ちた気もしたね。亡くなった母は、正直、父に愛されている感じはしなかった。父には、他に好きな女性がいるのではないか。昔から、そんな気がしていたよ」





 それが、シルヴィアというロレンツォの母か、とナーディアは思った。……いや、元を辿れば、エメリアになるのか。





「これほど長い間、母を裏切っていたとは思わなかったけれどね……。そういう意味では、父に対しては腹立たしい思いはある。でも、ロレンツォを憎む気持ちはないよ。むしろ、窮屈な思いをしてきたことだろうと、気の毒に思う」





「ダリオ……。あなたってやっぱり、人間ができてるわねえ!」





 ナーディアは、ほっと胸を撫で下ろした。尊敬と激励を込めて、ポンポンと肩を叩けば、ダリオは少し困ったような顔をした。





「ナーディア……。男だらけの環境で働いているせいなのだろうが。そういう言動は、止した方がいい。女性が、みだりに男性の体に触れるものじゃないよ」





「……! ごめんなさい」





 ナーディアは、慌てて手を離した。口調は女性に戻っても、仕草には、普段の癖が出てしまうようだ。





「ダリオみたいな紳士に、騎士団の荒くれどもと同じ扱いをしてはダメよね」





 由緒ある侯爵家の令息であるダリオに、ナーディアは敬意を示したつもりだったのだが。ダリオの表情は、かえって険しくなった。





「君は、騎士団の同僚男性に、そんな真似をしているのか?」



「そりゃ、そういう風習があるもの。郷に入れば郷に従えと言うじゃない?」





 ダリオはしばらく黙っていたが、やがてはーっとため息をついた。





「こんな風に、単刀直入に切り出すつもりはなかったんだが。どうやら、早めに用件を言った方がよさそうだ……。ナーディア、近々我が家では、ロレンツォとフローラの婚約披露パーティーを開催する。君も、来てくれ」





「あら、そんなに改まって言うことじゃないでしょ。もちろん行くわ……」





 ダリオは、ナーディアの言葉を厳しい声音でさえぎった。





ドレスで(・・・・)、だ」
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