最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる
11
「娼館に通うこと自体が、悪いとは言わないけれどね。……ああ、ちなみに僕は、利用したことはないから」
そう断った後、ダリオは言いづらそうに告げた。
「だが、限度というものがある。コルラードはずいぶん浪費しているようだし、社交界では噂になりつつある」
ナーディアは、呆然とダリオの話を聞いていたが、そこではたと気付いた。
「待って。もしかして、今夜も? 兄様は、外出中と聞いたわ」
「……恐らくは。このままでは、まずいぞ。モンテッラの家名に傷が付く」
まったくもって、ダリオの言う通りだ。兄に唯一才能があるとしたら、家族に迷惑をかけることだろう、とナーディアは嘆息した。
「兄様に、言って聞かせるわ」
「君が忠告したら、逆効果だろう」
否定できないところが辛い。父に報告することも考えたが、それはためらわれた。ロベルトは、最近とみに体調が悪いのだ。フローラの嫁入りだけでも負担だろうに、余計な気苦労をかけたくはなかった。
(どうしようか……)
弱り切っていると、ダリオはナーディアの顔をチラと見た。
「僕が、どうにかしてあげてもいいが。あいつの尻拭いなら慣れているし、この手の話は、男同士の方が通じやすいだろう」
確かに幼少の頃から、ダリオはコルラードの世話係的な存在だった。同い年とはいえ、二人の出来は雲泥の差だったのだ。
「そんな……、ダリオに悪いわ」
「構わないさ……。でも、見返りは欲しいな」
ダリオが意味ありげな微笑を浮かべる。ナーディアは嫌な予感がした。
「おとなしく、ドレスを仕立ててくれればね」
やっぱりそうきたか、とナーディアは唇をへの字に曲げた。
「ロベルト様に、心配をかけたくないだろ? 僕なら、穏便に解決してあげられるけどね」
ナーディアの思惑を、ダリオはお見通しのようだった。沈黙していると、彼はクスッと笑った。
「……決まりかな」
(一日、我慢すればいいだけだ)
ナーディアは、自分に言い聞かせた。男みたいな末娘がドレスを着て恥を掻く方が、長男の娼館通いが露見するよりも、遙かにマシに決まっている。
「仕立屋との打ち合わせは、フェリーニの家でするといい」
ダリオは、勝手に話を進めている。
「この屋敷に仕立屋を呼んだら、コルラードに見つかるだろうから。嫌な思いをしたくないだろう?」
確かに、ドレスなど作っているのを見つかったら、何を言われることやら。何だか乗せられた気もするが、細かく配慮してくれるのはありがたい。ナーディアは、一応礼を述べた。
「ありがとう」
「どういたしまして」
ダリオが悠然と微笑む。ナーディアは、その笑顔に安堵するのを感じた。だから、すっかり忘れていたのだ。この幼なじみの男が、策士であることを。その微笑みの裏で、とある計画が進行していたことを、ナーディアは全く気付かなかったのだった。
そう断った後、ダリオは言いづらそうに告げた。
「だが、限度というものがある。コルラードはずいぶん浪費しているようだし、社交界では噂になりつつある」
ナーディアは、呆然とダリオの話を聞いていたが、そこではたと気付いた。
「待って。もしかして、今夜も? 兄様は、外出中と聞いたわ」
「……恐らくは。このままでは、まずいぞ。モンテッラの家名に傷が付く」
まったくもって、ダリオの言う通りだ。兄に唯一才能があるとしたら、家族に迷惑をかけることだろう、とナーディアは嘆息した。
「兄様に、言って聞かせるわ」
「君が忠告したら、逆効果だろう」
否定できないところが辛い。父に報告することも考えたが、それはためらわれた。ロベルトは、最近とみに体調が悪いのだ。フローラの嫁入りだけでも負担だろうに、余計な気苦労をかけたくはなかった。
(どうしようか……)
弱り切っていると、ダリオはナーディアの顔をチラと見た。
「僕が、どうにかしてあげてもいいが。あいつの尻拭いなら慣れているし、この手の話は、男同士の方が通じやすいだろう」
確かに幼少の頃から、ダリオはコルラードの世話係的な存在だった。同い年とはいえ、二人の出来は雲泥の差だったのだ。
「そんな……、ダリオに悪いわ」
「構わないさ……。でも、見返りは欲しいな」
ダリオが意味ありげな微笑を浮かべる。ナーディアは嫌な予感がした。
「おとなしく、ドレスを仕立ててくれればね」
やっぱりそうきたか、とナーディアは唇をへの字に曲げた。
「ロベルト様に、心配をかけたくないだろ? 僕なら、穏便に解決してあげられるけどね」
ナーディアの思惑を、ダリオはお見通しのようだった。沈黙していると、彼はクスッと笑った。
「……決まりかな」
(一日、我慢すればいいだけだ)
ナーディアは、自分に言い聞かせた。男みたいな末娘がドレスを着て恥を掻く方が、長男の娼館通いが露見するよりも、遙かにマシに決まっている。
「仕立屋との打ち合わせは、フェリーニの家でするといい」
ダリオは、勝手に話を進めている。
「この屋敷に仕立屋を呼んだら、コルラードに見つかるだろうから。嫌な思いをしたくないだろう?」
確かに、ドレスなど作っているのを見つかったら、何を言われることやら。何だか乗せられた気もするが、細かく配慮してくれるのはありがたい。ナーディアは、一応礼を述べた。
「ありがとう」
「どういたしまして」
ダリオが悠然と微笑む。ナーディアは、その笑顔に安堵するのを感じた。だから、すっかり忘れていたのだ。この幼なじみの男が、策士であることを。その微笑みの裏で、とある計画が進行していたことを、ナーディアは全く気付かなかったのだった。