最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる
第五章 勝負と告白

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 その翌日、調練を終えたナーディアは、調練場の木陰で、マリーノら同僚らと談笑していた。





「ナーディア、昨日は実家へ帰ったんだろ? フローラ様はお元気だったか?」





 同僚の一人が、ナーディアに尋ねる。フローラに執心していた一人だ。





「うん。幸せそうで安心した」





 嫁入り支度の相談に乗る目的で帰ったにもかかわらず、結婚はおろかレディとしての作法自体すらあやふやなナーディアは、大した相談相手にはなれなかった。それでもフローラは、ナーディアが持参した婚約祝いのイヤリングを喜んでくれたし、あれこれと話したがった。





 内容は、ほぼロレンツォののろけである。彼は、ことあるごとに愛情のこもった手紙をフローラに書いたり、贈り物を届けたりしているのだそうだ。フローラは、それを妹に語って聞かせるのが、楽しくて仕方ないようだった。





「はあ~。『ラクサンドのネモフィラ』がついに人妻になるのかあ」





 質問した同僚は、大げさに肩を落とした。マリーノが、慰めるように背中を叩く。





「いい加減諦めろ。相手がロレンツォじゃ、勝ち目はない」





 当初は、その入団経緯から白い目で見られていたロレンツォだったが、皆が彼を見る目は、少しずつ変わり始めている。宮廷舞踏会での一件で一目置かれたということもあったが、やはり実力のせいだろう。ロレンツォはあらゆる武芸において、抜きん出た才能の持ち主だったのだ。明るく気さくな性格も功を奏して、彼は騎士団内で打ち解けつつあった。





(なかなか私と手合わせしてくれないのは、残念だけれど……)





 ナーディアは、それが唯一不満だった。もう一度剣の手合わせをしたいのに、ロレンツォは理由を付けては、応じてくれないのである。





「で、その幸運な花婿はどこにいるんだ?」





 同僚の一人が、きょろきょろと見回す。すると別の騎士が答えた。





「団長に絞られて、残されてる。調練中、構えが悪かったと」





 皆は、一様にうんざりした顔つきになった。剣術では、この王宮近衛騎士団の誰にも引けを取らないロレンツォの構えが悪いなど、言いがかりに決まっている。団長のザウリには、優秀な団員が入ると、いびる癖があった。ナーディアも、かつては理不尽な目に遭わされたものだ。
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