最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

2

 ザウリが、ナーディアの父、ロベルト・ディ・モンテッラの跡を継いで王立騎士団長になったのは、五年前だ。一部の地域で盗賊団の犯行が相次ぎ、ロベルトは部下らを率いて討伐へ向かった。その際ロベルトは、脚を負傷したのである。ロベルトを高く評価していたマルコ四世は、団長を続けるよう説得したが、彼は潔く引退した。





 その後、団長に昇格したのが、ザウリだった。当時彼は、国一番の剣の遣い手とみなされていた。武芸の中では剣術を最重要視するのがラクサンド王国のならわしであり、そういう意味では、彼の昇格は妥当ではあったのだが……。





 問題は、性格だった。ザウリはロベルトとは正反対に、部下への思いやりが欠けており、なおかつ狭量だったのだ。そんなザウリにとってみれば、圧倒的な実力を誇るロレンツォは、忌々しい存在に違いなかった。ロレンツォとはいとこ同士に当たるわけだが、これだけ長い間存在を知らされていなければ、他人も同然だろう。





「ま、ロレンツォもそれくらい辛抱しろ! 国一番の美女を射止めたんだからな。どこかで苦労しなければ、不公平というものだ」





 最初にフローラの話題を持ち出した同僚が、冗談めかして言う。うんうんと、皆は賛同した。





「婚約披露パーティーを機に、我々もフローラ嬢への思いを断ち切るとするか! 彼女の美しい晴れ姿を、しかと目に焼き付けるぞ」





 ナーディアは、ぎょっとした。





「ちょっ……、何だって? お前ら、婚約披露パーティーに出席するのか?」



「ああ。だってフェリーニ家から、正式にご招待されたぞ? 我々、王宮近衛騎士団のメンバー全員がな」





 そう答えるのは、マリーノだ。ナーディアは、蒼白になった。ラクサンドの王宮近衛騎士団は、基本的に実力主義で構成されるため、下級貴族の子弟も多い。名門フェリーニ家とは、親交のない家がほとんどである。まさか招待されているとは思わなかった。





(ダリオめ。私を、同僚たちのさらしものにする気か……!?)
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