最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

5

「……じゃあ当面は、娼館へ通うどころじゃないわね」



「その通り」





 取りあえずはほっとしたものの、今度は別の不安がナーディアの頭をもたげた。事故対応など、果たしてコルラード一人でできるのだろうか。





「ロベルト様は、助っ人を同行させると仰ったんだが。コルラードは、一人で大丈夫だと強情を張ったんだよ」





 ナーディアの心を読んだように、ダリオが言う。兄は妙なところで勝ち気なのを、ナーディアは思い出した。





「わかったわ。で、昨日の取引の件だけれど。やっぱりコルラード兄様の説得は私がするから、ダリオは何もしなくて結構よ。だから、ドレスは着ないわ」



「そんなに、着たくないんだ、ドレス」





 ダリオが、呆れたようにため息をつく。





「当然じゃない」



「……そう」





 ダリオはしばし思案した後、こんなことを言い出した。





「それなら、君の好きな勝負をしないか。先に、コルラードの娼館通いを止めさせた方が勝ちだ。君が勝てば、ドレスの件はなし」



「上等だわね。受けて立つわ」





 ナーディアは意気込んだが、ダリオも自信たっぷりな様子だった。





「その代わり、僕が勝ったら、即座に仕立屋を呼ぶぞ? 張り切ってやって来たと思ったら、注文は取り消し、なんてことになったら彼らが気の毒だからね。その場合は、何が何でもドレスを着てもらうからな」



「わかったわよ!」





 負けるものか、とナーディアは心に誓った。闘志に満ちたナーディアとは対照的に、ダリオは涼しい顔をしている。





「君に勝算があるとは思えないけどね。あのコルラードを御せるのは、僕くらい……」



「コルラード殿が、どうかなさったのですか?」





 そこへ不意に、澄んだ声が飛びこんで来た。振り返れば、いつの間にかロレンツォが近付いて来るではないか。居残り調練は終わったらしい。
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