最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

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「ああ、急に失礼しました。ダリオ兄上のお姿を見かけたもので」





 ロレンツォが、ダリオとナーディアに微笑みかける。ドレスの話を聞かれなかっただろうか、とナーディアはヒヤヒヤした。





「婚約披露パーティーの件で、お前に確認したいことがあって来たんだ。ついでにナーディアに、コルラードは当面王都を留守にする、と話していた」





 ダリオの無難な説明に、ナーディアは胸を撫で下ろした。一方ロレンツォは、残念そうな顔をしている。





「コルラード殿にはご挨拶しそびれているので、気になっていたのですが。それでは、仕方ありませんね……。もしや、豪雨で橋が崩落した関係ですか?」





 他領の話なのによく知っているな、とナーディアは驚いた。





「その通りだ。タイミングが悪かったな……。まあ取りあえず、他の準備を先に進めるとしよう。ロレンツォ、今から時間はあるかい?」



「もちろんです。どうぞ、寮の部屋へいらしてください」





 ロレンツォが、あっさり頷く。ダリオは、ナーディアの方を向き直った。





「じゃあナーディア、例の件はそういうことで……。ああそうだ、昨日は本をありがとう。実に面白かったよ」



「もう読んだの?」





 ナーディアは目を見張った。昨夜ナーディアは、渡しそびれていた本を、ようやくダリオにプレゼントできたのである。それは異文化について書かれた書物で、語学や他国の歴史に関心のあるダリオなら、気に入るかと思ったのだ。だがまさか、早速読んでくれたとは。





「それはもう、一気にね。特に、シリステラに関する記載が興味深かった。我が国も、シリステラを敵視ばかりするのではなく、外交戦略を工夫せねばと思ったよ」





 おや、とナーディアは思った。ロレンツォも、敵国シリステラについて、似たようなことを言っていなかったか。





(やっぱり、兄弟なんだな)





 ナーディアは、妙に感心した。見た目は全く似ていない二人だが、血は争えないということか。ナーディアは、つい漏らしてしまった。





「ダリオ。あなた、ロレンツォと気が合うかもしれないわ。彼も、歴史や外交に関する書物をたくさん持っているの。寮の部屋へ行くなら、見てみたら?」





 お節介とはわかっていたが、趣味や思想が共通しているなれば、兄弟はさらに仲良くなれるのではと思ったのだ。だがそのとたん、ダリオの表情は強張った。





「ナーディア。君は、ロレンツォの部屋を訪れたのか?」
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