最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

7

 ダリオの眼差しは、だんだん険しくなってくる。慌てて弁明しようとしたナーディアだったが、それよりも早くロレンツォの声が響いた。





「彼女は俺に、婚約祝いを持って来てくれたんです。ほら、これですよ」





 ロレンツォが、自分の腹部を指す。ナーディアが贈ったベルトを、彼は早速使い始めたのだ。毎日身に着けているようだった。





「……そう。素敵なデザインだ」





 ダリオが呟く。何だか、渋々といった様子だった。一方のロレンツォは、機嫌良くナーディアに語りかけた。





「ナーディアは、センスが良いな。これはネモフィラだろう? フローラ嬢の象徴」





 ベルトには、剣と青い花が刺繍されているのである。だが実は、それを選んだ時イメージしたのは、ワスレナグサだった。無意識に、ロレンツォとジャンニを重ねていたのだろう。





「……まあな」





 ナーディアは、曖昧に頷いた。そう思ってくれた方が、都合がいい。ジャンニにもらったワスレナグサのことは、誰にも話すつもりはないからだ。





「花にばかり見とれてもらっちゃ困るぞ。剣だって、描かれてるだろ? ちゃんと剣の腕も磨けって意味だ」





 ナーディアは、さりげなく話題をそらした。当然、とロレンツォが大きく頷く。





「心配ご無用。さっきだって、団長にしごかれてきたからな」



「油断は大敵だぞ? マリーノだって、頑張って鍛錬してる。……何だか知らないけど、やたら張り切ってるんだ。せいぜい、抜かされないようにな」



「先輩からのご忠告として、ありがたく受け取っておくよ」





 茶目っ気たっぷりに、ロレンツォが笑う。するとダリオが咳払いをした。





「ロレンツォ、そろそろ打ち合わせに入りたい。悪いが、時間がないんだ」



「失礼しました、兄上」





 ロレンツォは、慌ててたたずまいを直した。ダリオは早くも、調練場の門へ向かって歩いて行く。ロレンツォも後に続こうとしたが、ふとナーディアの方を振り返った。





「何?」



「……いや。ナーディアは、ダリオ兄上の前だと、女性らしい言葉遣いになるんだな、と思って」





 その眼差しからは、先ほどまでの明るい光は消えていた。意外にも真剣な表情に、ナーディアは戸惑った。





「それは……」





 幼なじみだからだ、という答は口にできなかった。ダリオが、こちらを振り返ったからだ。





「ロレンツォ、早くしてくれないか」





 ロレンツォは一瞬ためらった後、「じゃあ、また」とナーディアに言い残し、走り去って行ったのだった。
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