最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

9

 出て来たマリーノは、ナーディアを見て顔をほころばせた。酒のグラスを手にしている。どうやら、晩酌中だったようだ。





「いいところに来た。美味いリキュールをもらったんだ。一緒に飲むか?」



「ありがとう。でもその前に、聞きたいことがあるんだ。急ぎだ」





 ナーディアは、マリーノの顔を真剣に見つめた。





「お前、『リマソーラ』を利用したことはあるか?」





 マリーノは、リキュールを盛大に噴いた。





「なっ……、いや、その……」



「あるんだな?」





 真っ赤になっているところからして、答はイエスだろうと推察する。





「一回だけだよ」





 誤魔化せないと観念したのか、マリーノは小声で答えた。ナーディアの顔をチラと見ながら、付け加える。





「それも、俺としては予行練習的な意味で……」



「一回でも、利用経験があるのはありがたい。実は、『リマソーラ』の利用ルールや慣習について、至急知りたくてな。それで、来店したことがある男を探していたんだ」





 マリーノは、肩を落とすと、「無視かよ」と呟いた。





「……まあいい。で、どうしてまた、そんなことを知りたいんだ?」





 当然の質問である。ナーディアは恥を忍んで、兄が娼館……恐らく『リマソーラ』に通い詰めているのだ、と打ち明けた。





「フローラ姉様の結婚も控えているし、みっともない噂は避けたいんだ。それでまずは現地へ行って、兄の利用状況を詳しく把握しようと思っている」



「まあ、事情はわかったけれど……。行ったところで、客の個人情報なんて教えてくれるだろうか?」





 マリーノは、ナーディアと同じ懸念を抱いたようだった。ナーディアは、にやりと笑った。





「幸い、兄本人は、今王都を離れているんだ。……そこで。私はコルラードに変装して、『リマソーラ』に来店しようと思う」
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