最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

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「本気か!?」





 マリーノが、目を剥く。ナーディアは、目を輝かせて頷いた。





「コルラードを装って来店し、『いつもの娘を』とでも言えばいいんだ。それで、兄の贔屓の女性がわかる。そして、肝心の行為に至るまでに、体調が悪くなったとでも言って、帰ればいい」





「いやいや! それは無茶だ。どう考えても、バレるだろう」





 マリーノが、激しくかぶりを振る。ナーディアは、自分の顔を指した。





「大丈夫だって。兄の顔は、マリーノも知っているだろう? 私とそっくりだ……、不本意ながら。声を低くして、装いを似せれば騙せるだろう。……ああ、唯一違うのが身長か。私の方が少し低いが、踵の高い靴を履けば、どうにかなる」





 肌の色も違うぞ、とマリーノは密かに思った。日々野外で鍛錬しているナーディアの顔は、日焼けしきっており、男性のコルラードよりよほど黒いのだ。だがマリーノは、それを心の中に押し止めた。あるかないかわからない、ナーディアの乙女心に配慮したのだ。夜の暗がりなら誤魔化せるだろう、と自分に言い聞かせる。





「それで、だ。もちろん私は、『リマソーラ』に行ったことはないからな。風体は兄に似せられたとしても、店のルールがわからずにまごついていたら、偽物だとバレるだろう。それで、教えて欲しかったんだ」





「なるほどね……。教えるくらいは、するけれど」





 マリーノは、少し思案した。





「一人で行くのは危険だ。あの辺りは、治安が良いとは言えないぞ? 『リマソーラ』は安全だとしても、周辺にはいかがわしい娼館だってあるんだ。女とバレて、さらわれて売られでもしたらどうする」





「はは! 私を誰だと思ってる? ラクサンドの最強騎士だぞ。第一、私なんぞが娼婦として売り物になるものか」





 ナーディアは一笑に付したが、マリーノは頑強に言い張った。





「お前が強いのはわかってるが、万一ということがあるだろう。俺も一緒に付いて行く。男二人で連れだって行くケースも、珍しくないしな」



「……まあ、それならお言葉に甘えるか。悪いな、迷惑をかけて」





 神妙に礼を述べつつも、ナーディアはチラと思った。売り物うんぬんの所は、否定しないのだな、と。
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