最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

11

 その後ナーディアは、マリーノの協力を得て、手早く変装した。元々、職務時間以外でも男物の服を着る習慣であるナーディアだが、さすがに貴族男性の正装は持っていない。ジュストコールとジレ、首回りを飾るクラヴァットは、マリーノから借りた。一応は伯爵家の子息だけあって、彼は一通りの正装を常備していたのだ。





「悪いな、何から何まで」





 着替えて自室から出て来ると、マリーノはなぜか顔を赤くした。





「何だよ?」



「いや、さすがのお前でも、俺の服を着たら華奢に見えるなって」





 女性としては遙かに体格の良いナーディアだが、確かにマリーノのジュストコールは、肩幅や袖が余る。ナーディアは、やや不安になった。





「不自然かな?」



「いや、いんじゃね? 夜で暗いし、少しくらい誤魔化せるだろうさ」





 マリーノは、妙に機嫌良く頷いた。





「あ、帽子も忘れんなよ?」



「そうだった」





 ナーディアは、髪を短く耳の下で切りそろえている。とはいえ、男性の髪型とも違うのだ。これまたマリーノから借りた帽子を目深にかぶって、ナーディアは中途半端な髪をどうにか隠した。





「じゃあ行くか」





 寮を出る前、二人は団長のザウリの部屋を訪れて、外出許可を求めた。ザウリはあっさり承諾したものの、ナーディアを見てあっけにとられた顔をした。





「ところで、何だ、その格好は? 仮装舞踏会にでも出かける気か? それとも、ついにそういう趣味に走ったか」



「前者です!」





 ナーディアは、間髪入れずに答えた。同時に、そういう趣味って何だ、と思う。





「二人とも、羽目を外しすぎて明日の調練に影響させるなよ?」





 幸いにもザウリは、それ以上追及することはなかった。声をそろえて大丈夫ですと答えれば、ザウリは軽く頷いた。





「ま、お前らなら安心だが。責任感も強いし、真面目だ。……それに比べて」





 ザウリは、忌々しげにため息をついた。





「あの新人には、困ったものだ」



「……ロレンツォがどうかしましたか?」





 気になり、ナーディアは尋ねてみた。ザウリは、眉間にきつく皺を寄せた。





「昨夜いきなり申し出て、今日は調練だけ出席して、あとは休暇にしてくれと。入団したばかりの身で、何を考えているのかと思ってね。王宮近衛騎士団がどういう存在か、わかっているのかと言いたい」





 持ち場が異なるので、ロレンツォが今日、休暇を取っていたとは知らなかった。確かに、直前の申し出となれば、ザウリが怒っても当然だ。どうしたのだろう、とナーディアは想像を巡らせた。調練後、ダリオと婚約披露パーティーに関する打ち合わせをしていたようだが。婚約に向けた動きの中で、何かトラブルでもあったのだろうか。





(コルラード兄様の件が解決したら、私も協力しよう……)





 ナーディアは、そう心に決めたのだった。
< 49 / 200 >

この作品をシェア

pagetop