最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる
12
寮を出たナーディアとマリーノは、辻馬車を拾って『リマソーラ』へと向かった。馬車に揺られること数十分、着いた先はいかにもな歓楽街であった。
「あの建物だ」
マリーノが、短く告げる。確かに、怪しげな娼館もチラホラ見られる中で、『リマソーラ』は比較的落ち着いた雰囲気のたたずまいだった。奥まった場所にあるので、出入りも人目に付きにくい。よく考えられているな、とナーディアは感心した。
馬車を降りると、ナーディアはマリーノを外に待たせて、一人で入館した。すると、責任者らしき中年男性が出迎えてくれた。黒服に身を包み、名家の執事といっても通りそうな威厳と貫禄を兼ね備えている。
「これは、モンテッラ様。お待ち申し上げておりました」
ナーディアの顔を見るなり、男性は即座に言った。コルラードになりすませたことに安堵する一方で、兄の常連っぷりはもはや疑いない事実であると突きつけられ、ナーディアはげんなりした。
「今夜も、アガタでございますか?」
「ああ」
正体がバレないよう、短く答える。内心では、やはり贔屓の娼婦がいたのだな、と納得していた。名前も把握できたし、順調な滑り出しではないか。ところが男性は、こう続けた。
「大変、申し上げづらいのですが……。実はアガタは、ご縁あって身請けされたのでございます。本日のことです」
「――何だって!?」
思わずナーディアは、大声を上げていた。つい地声になってしまった気がするが、それどころではない。コルラードの贔屓の娼婦が、まさに今日、身請けされたなんて。タイミングが良すぎる。ダリオが噛んでいるとしか思えなかった。
(先を越されたか……!)
自分でも、蒼白になっていくのがわかる。男性はそれを、お気に入りの娼婦が辞めたことによるショックと解釈したらしかった。
「突然のことで、申し訳ございません。以前にもアガタには、身請けの話はあったのです。ですが、男性のご家族が反対されて、いったん白紙になりました。ところが一転、その男性が、やはり彼女を迎えたいと言い出されまして。協力者が現れて、男性のご家族を上手に説得されたそうです」
ダリオに間違いない、とナーディアは思った。
(私の負けだ。ドレスが待っている……!!)
「あの建物だ」
マリーノが、短く告げる。確かに、怪しげな娼館もチラホラ見られる中で、『リマソーラ』は比較的落ち着いた雰囲気のたたずまいだった。奥まった場所にあるので、出入りも人目に付きにくい。よく考えられているな、とナーディアは感心した。
馬車を降りると、ナーディアはマリーノを外に待たせて、一人で入館した。すると、責任者らしき中年男性が出迎えてくれた。黒服に身を包み、名家の執事といっても通りそうな威厳と貫禄を兼ね備えている。
「これは、モンテッラ様。お待ち申し上げておりました」
ナーディアの顔を見るなり、男性は即座に言った。コルラードになりすませたことに安堵する一方で、兄の常連っぷりはもはや疑いない事実であると突きつけられ、ナーディアはげんなりした。
「今夜も、アガタでございますか?」
「ああ」
正体がバレないよう、短く答える。内心では、やはり贔屓の娼婦がいたのだな、と納得していた。名前も把握できたし、順調な滑り出しではないか。ところが男性は、こう続けた。
「大変、申し上げづらいのですが……。実はアガタは、ご縁あって身請けされたのでございます。本日のことです」
「――何だって!?」
思わずナーディアは、大声を上げていた。つい地声になってしまった気がするが、それどころではない。コルラードの贔屓の娼婦が、まさに今日、身請けされたなんて。タイミングが良すぎる。ダリオが噛んでいるとしか思えなかった。
(先を越されたか……!)
自分でも、蒼白になっていくのがわかる。男性はそれを、お気に入りの娼婦が辞めたことによるショックと解釈したらしかった。
「突然のことで、申し訳ございません。以前にもアガタには、身請けの話はあったのです。ですが、男性のご家族が反対されて、いったん白紙になりました。ところが一転、その男性が、やはり彼女を迎えたいと言い出されまして。協力者が現れて、男性のご家族を上手に説得されたそうです」
ダリオに間違いない、とナーディアは思った。
(私の負けだ。ドレスが待っている……!!)