最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる
14
(……いや、まさか)
一瞬浮かんだ想像を、ナーディアは打ち消した。ロレンツォのはずがないではないか。一ヶ月前といえば、彼はまだ辺境にいた頃だ。王都の娼館など、来ているわけがない。
(私は、何でもロレンツォに結び付けすぎだ。エメラルドグリーンの目をした男なんて、いくらでもいるだろう)
とはいえ、面識のある範囲では、そんな瞳の男性はいないな、という思いもかすめる。あれこれ考えていると、責任者風の男性は、にこにこしながらすり寄って来た。
「気分を直されて、ゆっくりしていかれては? 若い綺麗な娘も、最近たくさん入りましてな。たとえば……」
「あいにくだが、今夜は失礼する」
断って、ナーディアは踵を返した。男性が、慌てたような声を上げる。
「モンテッラ様。今後も、是非いらしてくださいませ!」
(二度と来てもらったら困るんだよ)
苦々しい思いで内心呟きながら、店を出る。するとマリーノが、待ちかねていたように駆け寄って来た。
「どうだった? バレなかったか?」
「バレはしなかった。……それから、兄の贔屓の娼婦は、辞めたとわかった」
「よかったじゃないか」
ダリオとの勝負の件を知らないマリーノは、安堵の笑みを浮かべた。
「コルラード様も、これで少しは落ち着かれるかもしれないぞ。……どうした? それにしては、浮かない顔つきだな」
「ああ、いや」
いいではないか、とナーディアは自分に言い聞かせた。マリーノの言う通りだ。フローラの結婚を控えた今、最重要課題は、コルラードの娼館通いを落ち着かせることなのだから。自分がドレス姿をさらすくらい、我慢せねば……。
「今度は別の娘にはまりはしないかな、と案じただけだ」
急いで誤魔化すと、ナーディアはマリーノの顔を見た。
「それより今日は、本当にありがとう。付き合ってくれて、服まで貸してもらって。……どうだ、せっかくここまで来たんだから、お前は遊んでいったらどうだ? 世話になったことだし、私が奢る」
そのとたん、マリーノは顔色を失った。
一瞬浮かんだ想像を、ナーディアは打ち消した。ロレンツォのはずがないではないか。一ヶ月前といえば、彼はまだ辺境にいた頃だ。王都の娼館など、来ているわけがない。
(私は、何でもロレンツォに結び付けすぎだ。エメラルドグリーンの目をした男なんて、いくらでもいるだろう)
とはいえ、面識のある範囲では、そんな瞳の男性はいないな、という思いもかすめる。あれこれ考えていると、責任者風の男性は、にこにこしながらすり寄って来た。
「気分を直されて、ゆっくりしていかれては? 若い綺麗な娘も、最近たくさん入りましてな。たとえば……」
「あいにくだが、今夜は失礼する」
断って、ナーディアは踵を返した。男性が、慌てたような声を上げる。
「モンテッラ様。今後も、是非いらしてくださいませ!」
(二度と来てもらったら困るんだよ)
苦々しい思いで内心呟きながら、店を出る。するとマリーノが、待ちかねていたように駆け寄って来た。
「どうだった? バレなかったか?」
「バレはしなかった。……それから、兄の贔屓の娼婦は、辞めたとわかった」
「よかったじゃないか」
ダリオとの勝負の件を知らないマリーノは、安堵の笑みを浮かべた。
「コルラード様も、これで少しは落ち着かれるかもしれないぞ。……どうした? それにしては、浮かない顔つきだな」
「ああ、いや」
いいではないか、とナーディアは自分に言い聞かせた。マリーノの言う通りだ。フローラの結婚を控えた今、最重要課題は、コルラードの娼館通いを落ち着かせることなのだから。自分がドレス姿をさらすくらい、我慢せねば……。
「今度は別の娘にはまりはしないかな、と案じただけだ」
急いで誤魔化すと、ナーディアはマリーノの顔を見た。
「それより今日は、本当にありがとう。付き合ってくれて、服まで貸してもらって。……どうだ、せっかくここまで来たんだから、お前は遊んでいったらどうだ? 世話になったことだし、私が奢る」
そのとたん、マリーノは顔色を失った。