最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

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(……いや、まさか)





 一瞬浮かんだ想像を、ナーディアは打ち消した。ロレンツォのはずがないではないか。一ヶ月前といえば、彼はまだ辺境にいた頃だ。王都の娼館など、来ているわけがない。





(私は、何でもロレンツォに結び付けすぎだ。エメラルドグリーンの目をした男なんて、いくらでもいるだろう)





 とはいえ、面識のある範囲では、そんな瞳の男性はいないな、という思いもかすめる。あれこれ考えていると、責任者風の男性は、にこにこしながらすり寄って来た。





「気分を直されて、ゆっくりしていかれては? 若い綺麗な娘も、最近たくさん入りましてな。たとえば……」



「あいにくだが、今夜は失礼する」





 断って、ナーディアは踵を返した。男性が、慌てたような声を上げる。





「モンテッラ様。今後も、是非いらしてくださいませ!」





(二度と来てもらったら困るんだよ)





 苦々しい思いで内心呟きながら、店を出る。するとマリーノが、待ちかねていたように駆け寄って来た。





「どうだった? バレなかったか?」



「バレはしなかった。……それから、兄の贔屓の娼婦は、辞めたとわかった」



「よかったじゃないか」





 ダリオとの勝負の件を知らないマリーノは、安堵の笑みを浮かべた。





「コルラード様も、これで少しは落ち着かれるかもしれないぞ。……どうした? それにしては、浮かない顔つきだな」



「ああ、いや」





 いいではないか、とナーディアは自分に言い聞かせた。マリーノの言う通りだ。フローラの結婚を控えた今、最重要課題は、コルラードの娼館通いを落ち着かせることなのだから。自分がドレス姿をさらすくらい、我慢せねば……。





「今度は別の娘にはまりはしないかな、と案じただけだ」





 急いで誤魔化すと、ナーディアはマリーノの顔を見た。





「それより今日は、本当にありがとう。付き合ってくれて、服まで貸してもらって。……どうだ、せっかくここまで来たんだから、お前は遊んでいったらどうだ? 世話になったことだし、私が奢る」





 そのとたん、マリーノは顔色を失った。
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