最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる
15
「……どうした!?」
マリーノは青ざめている。理由がわからず、ナーディアはおろおろした。
「……お前って、本当に俺のこと、何とも思っていないんだな」
ややあって、彼は低い声で言った。
「それは、どういう……」
「好きな女に、他の女を抱いてこいって言われたらどういう気持ちになるか、想像してみろってんだ!」
ナーディアは、息を呑んだ。いつもは愛嬌を感じるマリーノの垂れ目は、珍しく鋭く吊り上がっている。彼のこんな真剣な表情は、手合わせの時でも見たことがない気がした。
「好きって……。まさか、私をか? 冗談だろう?」
「あいにく、本気だ」
マリーノがずいと近づき、ナーディアの手を握る。ちょうどそこへ、数人の男性が通りかかった。『リマソーラ』の利用客らしき彼らは、好奇の目でこちらを見た。当然だろう。今夜のナーディアは、男装しているのだ。端から見れば、男同士で手を取り合っているとしか見えない。
「こんな状況で告白するつもりは、なかったんだがな」
周囲の視線に気付いたらしく、マリーノは苦笑した。
「お前が、無神経なことを言うから……。そりゃ、色恋に疎い上に、鈍感ってのは知ってる。だがあれは、あんまりだ」
「ごめん……。全然、気付かなくて。……えっと、いつから?」
ナーディアは、混乱していた。マリーノのことは、ずっと一緒に過ごしてきた仲間だと思っていたのに。良き親友で、好敵手ではなかったのか……。
「お前が士官学校に入学した時からだ」
士官学校への入学といえば、十三歳の年になる。では六年も前ではないか、とナーディアは愕然とした。
「最初の手合わせで、お前は俺をあっさり打ち負かしたよな」
マリーノは、懐かしげな眼差しをした。そういえばそうだったか、とナーディアも思い出す。
「二歳も年下の、それも女に負けたと、ショックだったさ。次は勝とうと、何度も挑戦したけれど、結局駄目で……。でもお前は、その優秀さを鼻にかけることもなく、いつも仲間思いで心優しかった。女ってことで差別を受けても、めげることなく毅然と前を向いていて……。そんなお前と一緒にいるうち、いつしかお前しか目に入らなくなっていたんだ」
マリーノは青ざめている。理由がわからず、ナーディアはおろおろした。
「……お前って、本当に俺のこと、何とも思っていないんだな」
ややあって、彼は低い声で言った。
「それは、どういう……」
「好きな女に、他の女を抱いてこいって言われたらどういう気持ちになるか、想像してみろってんだ!」
ナーディアは、息を呑んだ。いつもは愛嬌を感じるマリーノの垂れ目は、珍しく鋭く吊り上がっている。彼のこんな真剣な表情は、手合わせの時でも見たことがない気がした。
「好きって……。まさか、私をか? 冗談だろう?」
「あいにく、本気だ」
マリーノがずいと近づき、ナーディアの手を握る。ちょうどそこへ、数人の男性が通りかかった。『リマソーラ』の利用客らしき彼らは、好奇の目でこちらを見た。当然だろう。今夜のナーディアは、男装しているのだ。端から見れば、男同士で手を取り合っているとしか見えない。
「こんな状況で告白するつもりは、なかったんだがな」
周囲の視線に気付いたらしく、マリーノは苦笑した。
「お前が、無神経なことを言うから……。そりゃ、色恋に疎い上に、鈍感ってのは知ってる。だがあれは、あんまりだ」
「ごめん……。全然、気付かなくて。……えっと、いつから?」
ナーディアは、混乱していた。マリーノのことは、ずっと一緒に過ごしてきた仲間だと思っていたのに。良き親友で、好敵手ではなかったのか……。
「お前が士官学校に入学した時からだ」
士官学校への入学といえば、十三歳の年になる。では六年も前ではないか、とナーディアは愕然とした。
「最初の手合わせで、お前は俺をあっさり打ち負かしたよな」
マリーノは、懐かしげな眼差しをした。そういえばそうだったか、とナーディアも思い出す。
「二歳も年下の、それも女に負けたと、ショックだったさ。次は勝とうと、何度も挑戦したけれど、結局駄目で……。でもお前は、その優秀さを鼻にかけることもなく、いつも仲間思いで心優しかった。女ってことで差別を受けても、めげることなく毅然と前を向いていて……。そんなお前と一緒にいるうち、いつしかお前しか目に入らなくなっていたんだ」