最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる
17
ナーディアは、しばらく唖然としていたが、ややあってマリーノを見つめ返した。
「マリーノ、思いがけなかったけど、お前の気持ちは嬉しい。……でも、待つのは止してくれ。お前がどうとかじゃない。たとえオルランド殿下の護衛でなくなったとしても、私は誰とも結婚するつもりはないから……。王妃殿下とお約束する前から、私は決めていたんだ。騎士である限り、恋も結婚もしないと」
「……なぜ」
マリーノが、当惑したような表情を浮かべる。
「この男だらけの環境で生きていくには、そうしないと駄目な気がしたから。悪いが、私はもう、『女』は捨てたんだ」
「女は捨てた、か」
マリーノが復唱する。彼は、不意にナーディアの手を離すと、腕を組んだ。微かに嘲るような眼差しで、ナーディアを見すえる。
「捨てきれていないようだが?」
「なっ……、何を根拠に!?」
ナーディアはカッとなった。マリーノは、信じていないというのか。士官学校で、騎士団で……。セクハラめいた言動をする男たちから身を守るため、色気の欠片も見せないよう、ナーディアはずっと努力してきた。彼はそれを、すぐ傍で見てきたはずなのに。
(否定するというのか……?)
まるで裏切られた気がする。怒りに震えているナーディアに向かって、マリーノは端的に答えた。
「それは、ナーディア。お前が今、恋をしてるからだ」
「まさか! 一体、誰に……」
ナーディアは今度こそ、マリーノにつかみかかろうとした。だが、思い止まった。彼は、そうするのをためらわせるほどの、寂しげな表情を浮かべていたのだ。
「ロレンツォ」
ナーディアは、息を呑んだ。
「俺は、いつもお前を見てるからわかる。お前の視線は、いつでもロレンツォを追いかけている。これは事実だ」
「それは! 奴が、手合わせに応じてくれないからだ」
「そうかな」
マリーノは、冷ややかにナーディアを見つめた。
「あいつは、同性から見ても惚れ惚れするくらい、いい男だ。何より、強い……。お前は、強い男が好きだものな。でも、目を覚ませ。ロレンツォは、お前の姉君の婚約者なんだぞ?」
「だから、違うと言ってるだろう!」
ナーディアは、ついに声を荒らげた。
「私は、誰とも恋をするつもりはないんだ! お前とも、ロレンツォとも、他のどんな男とも……。もう帰る。今日は、付き合ってくれて助かった!」
言い捨ててナーディアは、辻馬車を拾いに駆け出したのだった。
「マリーノ、思いがけなかったけど、お前の気持ちは嬉しい。……でも、待つのは止してくれ。お前がどうとかじゃない。たとえオルランド殿下の護衛でなくなったとしても、私は誰とも結婚するつもりはないから……。王妃殿下とお約束する前から、私は決めていたんだ。騎士である限り、恋も結婚もしないと」
「……なぜ」
マリーノが、当惑したような表情を浮かべる。
「この男だらけの環境で生きていくには、そうしないと駄目な気がしたから。悪いが、私はもう、『女』は捨てたんだ」
「女は捨てた、か」
マリーノが復唱する。彼は、不意にナーディアの手を離すと、腕を組んだ。微かに嘲るような眼差しで、ナーディアを見すえる。
「捨てきれていないようだが?」
「なっ……、何を根拠に!?」
ナーディアはカッとなった。マリーノは、信じていないというのか。士官学校で、騎士団で……。セクハラめいた言動をする男たちから身を守るため、色気の欠片も見せないよう、ナーディアはずっと努力してきた。彼はそれを、すぐ傍で見てきたはずなのに。
(否定するというのか……?)
まるで裏切られた気がする。怒りに震えているナーディアに向かって、マリーノは端的に答えた。
「それは、ナーディア。お前が今、恋をしてるからだ」
「まさか! 一体、誰に……」
ナーディアは今度こそ、マリーノにつかみかかろうとした。だが、思い止まった。彼は、そうするのをためらわせるほどの、寂しげな表情を浮かべていたのだ。
「ロレンツォ」
ナーディアは、息を呑んだ。
「俺は、いつもお前を見てるからわかる。お前の視線は、いつでもロレンツォを追いかけている。これは事実だ」
「それは! 奴が、手合わせに応じてくれないからだ」
「そうかな」
マリーノは、冷ややかにナーディアを見つめた。
「あいつは、同性から見ても惚れ惚れするくらい、いい男だ。何より、強い……。お前は、強い男が好きだものな。でも、目を覚ませ。ロレンツォは、お前の姉君の婚約者なんだぞ?」
「だから、違うと言ってるだろう!」
ナーディアは、ついに声を荒らげた。
「私は、誰とも恋をするつもりはないんだ! お前とも、ロレンツォとも、他のどんな男とも……。もう帰る。今日は、付き合ってくれて助かった!」
言い捨ててナーディアは、辻馬車を拾いに駆け出したのだった。