最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる
第六章 父の決断

1

 それから五日後の夜。ナーディアは悶々としながら、オルランドを執務室へと送り届けていた。ここ最近、一気にいろいろなことが起こりすぎて、パニック状態なのだ。マリーノとはあれ以来、顔を合わせてもぎごちない空気にしかならない。ナーディアとしては、元の友人関係に戻りたいが、そう簡単にはいかなさそうだった。





 そしてコルラードはといえば、一向に王都へ戻って来る気配がない。橋の崩落事故の被害は、ずいぶん大きかったようだった。橋の上に建っていた家々は、軒並み崩壊し、死者も多数出たとのことである。ナーディアは、それを聞いて胸が痛んだ。助けになりたいのはやまやまだが、自分がしゃしゃり出るわけにもいかない。せいぜい、コルラードが適切な対応をできるよう、祈るしかなかった。





(そして、兄様が帰られたら帰られたで、ドレスが待っているんだよなあ……)



 



 そこでナーディアは、ハッと気が付いた。コルラードが王都へ戻って、『リマソーラ』へ来店したらどうしようかと思ったのだ。彼自身は、アガタが身請けされたことをまだ知らない。行く可能性は、大いにあった。そうすれば、自分のふりをした誰かが来店したことが、バレてしまうではないか。ナーディアだと露見するのは、時間の問題だ。





(また、兄様との喧嘩の要因を作ってしまったなあ……)





 頭を抱えていると、オルランドが声をかけてきた。



 



「お疲れさん。今日はもう、上がっていいぞ」



「あ……、はい! ありがとうございます」





 ナーディアは、恭しく礼をした。オルランドは、いったんは執務室に入ろうとしたが、ふとこちらを振り向いた。





「ナーディア、どうかしたのか。何だかここ数日、上の空じゃないか」



「いえ、そのようなことは……。ですが、ご心配をおかけしてしまったとしたら、申し訳ございません」





 慌てて言いつくろっていると、オルランドは手招きした。





「悩みがあるのだろう? 聞いてやるから、入れ」



「いえ! そんな、私のことでお時間を取らせるわけには……」





 ナーディアは固辞したが、オルランドは譲らなかった。



 



「俺が気になるんだよ」





 促され、ナーディアはオルランドに付いて、執務室へと入った。とはいえ、何からどう話そうか、とナーディアは思案した。迷った末、こう切り出してみる。





「オルランド殿下。もし私が殿下の護衛から外れるとしましたら、後任には誰を選ばれますか?」
< 56 / 200 >

この作品をシェア

pagetop