最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

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「――一体、何事です!?」





 ナーディアは、仰天した。わからないわ、とフローラがかぶりを振る。





「現場から手紙が来たようなの。それを読んで、ひどくお怒りになって……。早馬を飛ばして、向かわれたわ。お止めしたのだけれど……」





 フローラがうつむく。ナーディアは、血の気が引くのを感じた。ロベルトは、五年前の負傷の影響で、脚の調子は完全とは言い難いのだ。そんな状態で、早馬を飛ばすだなんて……。





「それでナーディアに、お願いがあるの」





 すがるように、フローラが言う。





「お父様を追って、現場へ行ってくれないかしら?」



「私がですか。しかし……」



「騎士団のお仕事があるのに、無理を言っているのはわかっているわ」





 フローラには珍しいことだが、妹の言葉を遮った。





「でも私は、お父様のご体調が心配なの。ずっと、お加減がよろしくなかったのよ……。一刻も早く、お父様のお傍に付き沿う人間が必要だわ。けれど、私が馬車で追ったのでは、三日はかかってしまう。ナーディア、あなたなら、お父様と同じかそれ以上のスピードで、馬を走らせることができるでしょう?」





 ナーディアはためらった。というのは、ロレンツォが、あれ以来休み続けているからだ。ナーディアまで休暇を取りたいなどと言い出したら、ザウリが怒髪天を衝くことだろう。





「遠慮なく休んで行って来い」





 そこへ、意外な声がした。振り返れば、オルランドが執務室から出て来るではないか。





「で、殿下!? 失礼しました。廊下で、大きな声を出してしまって……」





「構わん。話はチラッと聞こえた。休暇を取ることを、遠慮しているのだろう? ザウリには俺から言っておくから、ナーディアは父君を追うとよい」





「殿下……。よろしいのですか?」





 なおもためらっていると、オルランドは微苦笑を浮かべた。





「ラクサンドの王太子は、大事な護衛と、国一番の美女が困っているのを見捨てるほど、薄情ではないぞ?」





「「あ……、ありがとうございます!」」





 ナーディアとフローラは、同時に声を上げると、オルランドに向かって礼をしていた。ナーディアは騎士式、フローラは淑女スタイルであったが。
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