最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

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「すみません。出過ぎた真似でしたでしょうか」





 ロレンツォが、チラとロベルトを見やる。いや、とロベルトは力なくかぶりを振った。





「ロレンツォ殿の気遣いには感謝する……。そして何よりも、この予算組み替え書について知らせてくれて、ありがとう」





 ロベルトが慌ててここへ駆け付けたのは、ロレンツォから、この書類に関する報告を受けたからのようだった。





「とんでもありません。では、こちらも、出過ぎた真似でなければよろしいのですが……。橋と、上に建っていた家の修復が終わりましたら、家賃や通行料は当面免除されることをご提案します。話を伺う限り、領民の皆様のお怒りは相当なようですから」





  橋の利用者からの通行料や、橋上の家からの家賃は、大切な領地収入である。ロベルトは一瞬絶句したものの、諦めたように頷いた。この甚大な被害を考えれば、やむを得ないと考えた様子である。



 



「そういたそう……。そして、ジャン」





 ロベルトは親方に向かって、深々と頭を下げた。





「この度は本当に、詫びの申し上げようもない。息子に任せた、私の責任だ。コルラードには、一切この件から手を引かせるし、謝罪させるから、どうか修復工事をお願いできないだろうか。石工の皆さんには、彼らが望むだけの給金を払おう。そして、厚かましい願いだが、今後も我が領内で工事を行う際は、引き続き世話になりたい」





「そりゃあロベルト様のご依頼なら、お受けしたいのはやまやまですが。でも、今後も、ですか……」





 親方が、言いよどむ。恐らくは、コルラードが跡を継いだ時のことを想像しているのだろう。そこで、ナーディアは気付いた。当のコルラードが、あくびをしながら、こちらへやって来るのを。彼は、ロベルトを認めたとたん、ぎょっとした顔をした。





「父上!? ナーディアまで……」



「コルラード!!!」





 コルラードは脱兎のごとく、踵を返して逃げ出そうとした。だが、そこはさすが、元猛将である。ロベルトは、俊足で追いかけると、あっという間にコルラードをつかまえた。襟首をつかんで、怒鳴りつける。





「この予算組み替え書は、何だ! お前は、私の領主印を、勝手に持ち出したのか!!」
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