最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

2

 その休日、ナーディアは、フェリーニ家を訪れていた。婚約披露パーティー用のドレスが完成したと聞いて、最終確認に来たのである。





 ちなみにダリオはあの勝負について、自分が勝ったと認めるのをためらっていた。確かにコルラードが勘当されたことで、勝敗はうやむやになった。だがナーディアは、ダリオの勝ちを認めた。別の男にアガタを身請けさせたのは、やはり彼の策略だったからだ。ナーディアは、その功績を潔く認め、約束通りドレスを仕立てることにしたのである。





「何だか、表情が明るいね。やっぱり、嬉しいのだろう? 素敵な衣装が仕上がったんだものな」





 応接間でナーディアを迎えたダリオは、顔を合わせるなり言った。淡いグレーの瞳には、からかうような光が宿っている。





「まさか。休みごとにここへ通うのも最後だなって、清々してるのよ」





 コルラードはいなくなったものの、ナーディアはやはり、ドレスの仕立てに関する打ち合わせを、フェリーニ家で行ったのだ。モンテッラの屋敷には、王立騎士団の人間が頻繁に訪れるからである。引退したとはいえ、人望が厚かったロベルトの元には、未だに元部下たちが相談事を持ちかけに来るのだ。誰かにドレスの件を知られれば、あっという間に騎士団全体に広まるに決まっている。ナーディアは、考えただけでゾッとしたのである。





「なるほどね」





 憎まれ口を叩いたというのに、ダリオは気を悪くした様子もなかった。





「確かに、通う(・・)のは最後かもしれないね」



「……どういう意味よ?」





 何でも、とダリオはかぶりを振った。





「ところで、ロベルト様のお加減はいかがかな」



「おかげさまで、大分良くなったわ」



「それは良かった」





 ダリオは、安堵したような笑みを浮かべた。





「フローラ姉様の準備も順調だし、何もかも上手くいっているって感じね」





 だがそう告げると、ダリオはなぜか、ふっと顔を曇らせた。





「……そうかな。僕は、これで本当にいいのかなって気がするけれど。……つまり、ロレンツォが婿に入ることだ」



「どうしてよ?」





 ナーディアは、眉を寄せた。フローラとロレンツォの婚約が決まった際は、たとえ表向きにせよ、祝福している様子だったのに。ここへ来て、なぜそんなことを言い出すのだろう。





「コルラード兄様が継いだ方がよかったと言いたいの?」



「まさか。いくら友人でも、そこまでの欲目では見れないよ。僕が言いたかったのは、そういうことじゃなくて……。ロレンツォの目的は、最初からそれだったのじゃないだろうか、ということだ。あいつは、フローラと結婚したかったのではなく、モンテッラの家に入りたかったんじゃないだろうか」
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