最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

3

「まさか」





 ダリオの考えは、突拍子もないものに感じられた。確かに次男であるロレンツォに、爵位継承権はない。でも、爵位だけが目当てなら、もっと良い家柄の令嬢を狙うだろう、とナーディアは密かに思った。はっきり言ってモンテッラ家など、『成り上がり』と陰口を叩かれることもあるくらいなのに。





(あれだけ、フローラ姉様を好きと公言していたのだから。やはり、姉様を愛しているのだろう……)





 だがダリオは、険しい表情のままだった。





「今回の橋の一件、確かにロレンツォはよくやったと、僕も評価している。だが何だか、あいつにとって出来すぎな展開の気がするんだ。……それに」





 ダリオは、ナーディアをチラと見た。





「ロレンツォは、本当にフローラを好きなのだろうか、と僕は疑い始めている。この前、調練場で三人で話したろう? フローラといる時よりも、ナーディア、君といる時の方が、ロレンツォはずっと楽しそうだった」





「そんなこと、あるはずないじゃない」





 ナーディアは一笑に付した。





「ロレンツォは最初から、フローラ姉様を好きと言い続けているじゃないの。私は気楽な同僚で友達だから、リラックスできるだけでしょう」



「そうは思えないが」





 ダリオは、なおも浮かない表情だ。ナーディアは、そこでハッとした。





(そうか。そういうことか……!)





 ナーディアは、ダリオの目を見つめて語りかけた。





「この前も言ったけど、あなたってやっぱり、人間ができてるわ! 悪魔だなんて思って、悪かったわよ」



「……何のことだ?」





 ダリオがきょとんとする。





「だから! フローラ姉様のことを、心配しているのでしょう? ロレンツォに。愛されていないのじゃないかって。他の男を選んだというのに、そこまで気にかけてあげるなんて、なかなかできることじゃないわよ」





「……君は、一体何を言ってるんだ」





 ダリオは、珍しく呆けたような顔をした。





「まさかとは思うが……。僕が、フローラに恋していたとでも言いたいのか?」



「今さら、とぼけなくたっていいじゃない」





 焦れったくなり、ナーディアはついまくし立てた。





「昔から、うちの屋敷へしょっちゅう来ていたのは、姉様目当てでしょ? コルラード兄様に用があると言っていたけれど、その言葉に騙されるほど、私は鈍くないわ」





「……いや、十分鈍いだろう」





 ダリオは、深いため息をついた。
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