最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる
5
「お待たせいたしました。お綺麗に仕上がりましてよ!」
仕立屋の華やかな声に、ナーディアはほっとため息をついた。拷問のような、長時間に及ぶ着付けの時間は、ようやく終わったらしい。
「さあさあ、ご覧くださいませ」
姿見の前に、引っ張って行かれる。着せられたのは、肩と胸が大胆に開いた、体のラインが強調されるデザインのドレスだった。マーメイドライン、とか言うらしい。仕立屋に何回も言われたので、さすがのナーディアも覚えたのだ。
「スタイルがおよろしいので、とてもお似合いです」
一同が、うんうんと頷く。露出度の高さに、ナーディアは最初怖じ気づいたのだが、仕立屋はかえってその方がいいと言い張った。鍛え抜いたおかげで、ナーディアには無駄な肉が一切ない。そこを美点として強調すべきだ、と彼女は主張したのである。
「……あ、ありがとう。素敵なデザインだと思います。気に入りました」
ドレスの色味はグレーで、上品な金色の刺繍が施されている。レースが若干あしらわれているものの、アクセント程度だ。全体的に控えめにまとまっていることに、ナーディアは安堵したのである。だが礼を述べると、仕立屋たちは意味ありげに顔を見合わせた。
「そう言っていただけて、何よりでございます! ヘアメイクやアクセサリーは、いかがでございますか?」
短い髪を誤魔化すため、侍女は付け毛をふんだんに使用したようだった。今のナーディアは、黒髪を高く結い上げた体になっている。他の令嬢たちと比べても違和感はなく、ナーディアは感心した。大きく開いた胸元には、ブラウンダイヤのネックレスが輝いている。メイクはそれに合わせたのか、茶系だ。
(こういう時、何て言えばいいのかなあ……)
ナーディアに、ファッションの知識は皆無である。元々、士官学校で男性同様の生活をしていた、ということもある。だが亡き母も、ナーディアに一切お洒落を教えようとしなかったのだ。父がコルラードを疎み、ナーディアを可愛がるのに対抗するように、母はナーディアに冷たく接したのである。
「いいと思います」
迷った末ナーディアは、無難にそう答えた。唯一浮かんだ感想は、ブラウンダイヤがコニャックの色に似てるなあ、というものだったが、さすがにそれを口にするのは適切ではない気がしたのだ。
「よろしゅうございました!」
大げさに頷いた後、仕立屋はあっと声を上げた。
「ナーディア様。私、うっかりしておりました。本来なら、アクセサリーをもう一点お着けしなければいけないのですが。こちらの応接間に、忘れてきたようですわ。すぐに取りに行きますので、少々お待ちいただけますか?」
「えーと。本番の時に着けるのではダメですか?」
コルセットが苦しすぎて、一刻も早く解放されたいのだけれど。だが仕立屋は、真剣にかぶりを振った。
「肝心要、ともいえるアクセサリーですから。あれ無くしては、完成とは言えません!」
「……じゃあ、早く取って来ていただけます?」
渋々了承すれば、仕立屋は弟子や侍女らを引き連れて、パタパタと部屋を出て行った。
仕立屋の華やかな声に、ナーディアはほっとため息をついた。拷問のような、長時間に及ぶ着付けの時間は、ようやく終わったらしい。
「さあさあ、ご覧くださいませ」
姿見の前に、引っ張って行かれる。着せられたのは、肩と胸が大胆に開いた、体のラインが強調されるデザインのドレスだった。マーメイドライン、とか言うらしい。仕立屋に何回も言われたので、さすがのナーディアも覚えたのだ。
「スタイルがおよろしいので、とてもお似合いです」
一同が、うんうんと頷く。露出度の高さに、ナーディアは最初怖じ気づいたのだが、仕立屋はかえってその方がいいと言い張った。鍛え抜いたおかげで、ナーディアには無駄な肉が一切ない。そこを美点として強調すべきだ、と彼女は主張したのである。
「……あ、ありがとう。素敵なデザインだと思います。気に入りました」
ドレスの色味はグレーで、上品な金色の刺繍が施されている。レースが若干あしらわれているものの、アクセント程度だ。全体的に控えめにまとまっていることに、ナーディアは安堵したのである。だが礼を述べると、仕立屋たちは意味ありげに顔を見合わせた。
「そう言っていただけて、何よりでございます! ヘアメイクやアクセサリーは、いかがでございますか?」
短い髪を誤魔化すため、侍女は付け毛をふんだんに使用したようだった。今のナーディアは、黒髪を高く結い上げた体になっている。他の令嬢たちと比べても違和感はなく、ナーディアは感心した。大きく開いた胸元には、ブラウンダイヤのネックレスが輝いている。メイクはそれに合わせたのか、茶系だ。
(こういう時、何て言えばいいのかなあ……)
ナーディアに、ファッションの知識は皆無である。元々、士官学校で男性同様の生活をしていた、ということもある。だが亡き母も、ナーディアに一切お洒落を教えようとしなかったのだ。父がコルラードを疎み、ナーディアを可愛がるのに対抗するように、母はナーディアに冷たく接したのである。
「いいと思います」
迷った末ナーディアは、無難にそう答えた。唯一浮かんだ感想は、ブラウンダイヤがコニャックの色に似てるなあ、というものだったが、さすがにそれを口にするのは適切ではない気がしたのだ。
「よろしゅうございました!」
大げさに頷いた後、仕立屋はあっと声を上げた。
「ナーディア様。私、うっかりしておりました。本来なら、アクセサリーをもう一点お着けしなければいけないのですが。こちらの応接間に、忘れてきたようですわ。すぐに取りに行きますので、少々お待ちいただけますか?」
「えーと。本番の時に着けるのではダメですか?」
コルセットが苦しすぎて、一刻も早く解放されたいのだけれど。だが仕立屋は、真剣にかぶりを振った。
「肝心要、ともいえるアクセサリーですから。あれ無くしては、完成とは言えません!」
「……じゃあ、早く取って来ていただけます?」
渋々了承すれば、仕立屋は弟子や侍女らを引き連れて、パタパタと部屋を出て行った。