最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

6

(遅いなあ)





 待つこと約十五分、ナーディアは首をかしげた。仕立屋たちは、一向に帰って来ないのだ。いくらこのフェリーニ邸が広いといっても、応接間へ行って帰って来るのに、それほど時間がかかるものだろうか。そして今さら気付いたが、全員で行く必要はあったのか。





 何やら嫌な予感がして、ナーディアは部屋から出ようとした。だが、扉に手をかけて、おやと思った。開けようとしても、びくともしないのだ。まさか、外から鍵をかけられたのか。





「誰かいませんか! 開けてください!」





 ドンドンと扉を叩いて怒鳴るが、返ってきたのは静寂だけだった。隅っこにある、使われていない部屋だから、使用人も来ることがないのだろう。こんな部屋を選ばなければよかったと思うが、後の祭りだ。 





(ダリオの仕業か……?)





 仕立屋の独断とは思えなかった。ドレス姿で閉じ込めて、一体どうしようというのだろう。いっそ蹴破ってやろうか、とナーディアは扉をにらみつけた。腕力には、自信がある。室内にある調度品でもぶつければ、破壊できる気がした。





(いや、さすがにそれはまずいか)





 ナーディアは、思い直した。いくらダリオのせいとはいえ、フェリーニ邸の扉や調度品を損傷するのは、侯爵に申し訳ないと思ったのだ。





 とはいえ、この現状には腹が立って仕方ない。コルセットは苦しいし、余計イライラしてきた。取りあえずは元の服に着替えるか、とナーディアは思った。着るのは厄介だったドレスだが、脱ぐだけなら一人でもできそうだ。





 うっとおしい付け毛やアクセサリーを取り払い、どうにかドレスを脱いでいく。コルセットを外してシュミーズ一枚になると、ナーディアはため息をついていた。





(やっと楽になれた……)





 さて、とナーディアはワードローブを開けた。着て来た服に着替えようと思ったのだ。だがそこで、ナーディアの目は点になった。ワードローブ内は、もぬけの殻だったのである。
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