最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

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 そういえば、今日はロレンツォも非番だったか、とナーディアは思い出した。だからフェリーニ邸へ戻って来たのだろう。ちょうどいい、とナーディアはほくそ笑んだ。ロレンツォに、ここから出してもらうのだ。帰って来てこの部屋がもぬけの殻だったら、ダリオはさぞ悔しがることだろう。





「ロレンツォ、いいところへ来てくれた。鍵を開けてくれないか?」





 ナーディアは、必死に呼びかけた。





「鍵?」



「ダリオに騙されて、閉じ込められたんだよ! 頼むから、開けてくれ!」





 扉の向こう側では、しばらく沈黙が続いた。まさかダリオの味方をする気じゃなかろうか、とナーディアは苛立ったが、返ってきたのは意外な返事だった。





「鍵なんてかかっていないぞ? 内側から開かないのか?」





 嘘をついている感じもしない。どういうことだ、とナーディアは訝った。ナーディアは、世間の非力な令嬢とは違うのだ。鍛え上げた腕で、渾身の力を込めて押したというのに。





「ははあ……。これ、もしかして、建て付けが悪くなってるんじゃないのか」





 ややあって、ロレンツォが思いついたように言った。





「長年、使われていなさそうな部屋だしな……。ああ、やっぱり枠が歪んでいる」





 何だ、とナーディアは拍子抜けした。





「外側からの方が、開けやすそうだ……。ちょっと待ってろ」





 ロレンツォが、扉をガタガタと動かしている気配がする。ナーディアは、固唾を呑んで待った。少しずつ、隙間が見えてくる。そしてついに、扉がバンと開いた。





「ナーディア、大丈夫か……」





 言いながら部屋に入って来たロレンツォだったが、瞬間、その場に固まった。シュミーズ一枚のナーディアと、床に散乱したドレスを見て、顔色を変える。





「誰にやられた!? ダリオ兄上か? それとも……」



「へ?」





 きょとんとしたナーディアだったが、数秒の後に気付いた。ロレンツォがどうやら、あらぬ誤解をしていることに。





「これは、違……」





 弁明しようとして、ナーディアはぎょっとした。ロレンツォが手を離したせいで、せっかく開いた扉は、無情にも再び閉まっていったのだ。勢い良く開けた反動のせいで、それはあっという間のスピードだった。バッターン、という音を立てて、扉が再び閉ざされる。





「……あ」





 ロレンツォは慌てて後ろを振り返ったが、遅すぎた。ナーディアは、彼に食ってかかっていた。





「馬鹿! どうしてくれんだよ、せっかく開いたってのに!」





 何だか、泣きたくなってきた。





(また、閉じ込められたのかよ……)
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