最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

9

「悪かった! 責任を持って開けるから」





 ロレンツォは、慌てて扉に体当たりした。だが、びくともしない。無理やりこじ開けた上、弾みを付けて閉まったせいで、歪みがひどくなったのだろう。ナーディアも協力して押したが、先ほどよりもさらに強力に閉まってしまったようだった。





「ダメだ」





 ロレンツォが、ため息をつく。彼は、室内の方を向き直ると、ぐるりと見回した。





「窓もないんだな……。仕方ない。残る手段は、これか」





 ロレンツォは、小ぶりのチェストを指した。





「これを投げつけようか。扉を蹴破れるかもしれない」



「いや、止めようぜ」





 自分もさっきは同じことを考えたが、ナーディアは彼を押し止めた。





「家具を傷つけるのは、まずいだろう」





 するとロレンツォは、クスリと笑った。





「なら、ずっと俺と二人きりだが。そうしたいのか?」



「馬鹿。自惚れんな」





 ナーディアは、カッと顔が熱くなるのがわかった。





「大体、誰のせいでこんな状況になったと思ってる。お前が、変な勘違いをするからだろうが!」



「そんな格好をしてるからだろう。てっきり、手込めにされたかと思ったぞ……。違うなら、よかった」





 そう言うロレンツォは、心底安堵したような表情を浮かべていて、ナーディアは戸惑った。





「私を手込めにしようなんて男、いるわけないだろ」





 心配してくれたことは嬉しいのに、ナーディアには素直にそう告げることができなかった。





「そういう思い込みは止せ。お前は、十分に魅力的だ。もうちょっと危機感を持たないと、後悔する羽目になるぞ?」



「は! まさか、あり得ない」





 ナーディアは、鼻で笑った。





「それに、万一そんな酔狂な男が現れたとしたら、半殺しの目に遭わせてやる……」





 言葉の途中で、ナーディアは息を呑んだ。ロレンツォに、右手首をつかまれたからだ。反射的に振りほどこうとしたが、ロレンツォは空いている腕でナーディアの体を抱え込んだ。あっという間に、横抱きにされる。





「ロレンツォ! 何すんだ!」





 全身をばたつかせて暴れるが、体が宙に浮いた状態では、意味のない抵抗だった。さらに悔しかったのは、捕らえられた手首が全く振りほどけないことだ。生まれて初めて、男の腕力を実感した気がして、怖ろしくなる。





「放せ……!」





 ロレンツォは無言でナーディアを運ぶと、乱暴にソファに下ろした。逃れる隙を与えられないまま、のしかかられる。





「この……!」





 せめて張り倒してやろうと、ナーディアは、かろうじて自由な左手を振り上げた。だがそれすらも、あっさりと捕らえられた。両手首を、頭上にまとめて固定される。痛いほどの力だった。





「いっ……」





 不覚にもうめき声を漏らせば、初めてロレンツォが言葉を発した。





「どうした。半殺しの目に遭わせるんじゃなかったのか?」





 彼の口元には薄い微笑が浮かんでいて、ナーディアは戦慄を覚えた。
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