最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

10

「止めろ……」





 ナーディアは、どうにか声を発した。情けなくも、震えるのがわかる。





「女なら、誰でもいいのか? ロレンツォ。お前、そんな男だったのかよ? だったら、ダメだ。姉様をやるわけにはいかない……」



「ぷっ」



 



 不意に、吹き出す声が聞こえた。見上げれば、ロレンツォはなぜか楽しげに笑っている。同時に、拘束が緩んだ。





「本気にしたか?」



「――何だよ、冗談かよ!」





 ナーディアは、カッと気色ばんだ。起き上がり、今度こそロレンツォを張り倒そうとする。だが、その動きは止まった。彼がこう言ったからだ。





「これでわかっただろう。危機感を持て、という意味が」





 ロレンツォは、厳しい眼差しでナーディアを見すえていた。





「確かにお前は強いが、男が本気になったら敵いはしない。俺一人が相手でも、こうなんだ。複数の男に襲われたら、どうする? 慢心するのもいい加減にしろ」





「……わかった、ごめん」





 ナーディアは、神妙に頷いた。





(ロレンツォ。真剣に、案じてくれたのだな……)





 体を張って忠告してくれた、というわけか。それにしても真に迫った演技だったが。何だか気まずくなり、ナーディアは黙り込んだ。するとロレンツォは、やにわにシャツを脱ぎ始めた。再びぎょっとしたものの、彼はそれをナーディアに着せかけた。





「着てろ。冷え込んできたし……。第一その格好は、扇情的すぎる。演技でなく襲いたくなったら、どうしてくれるんだ」





 冗談にしては、深刻な口調だった。どう返そうか迷ったが、取りあえず礼を述べることにする。





「ありがとう。……じゃあ、お借りする」





 うつむいて、シャツのボタンを留めていく。ロレンツォは、そんなナーディアをしばらくじっと見ていたが、やがてぼそりと言った。





「それから。俺は、女なら誰でもいい、なんてことはない。誓ってもいい」





 それきりロレンツォは黙り込んだ。
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