最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

13

「どうしたよ?」





 怪訝に思って、ナーディアは尋ねた。





「いや。ちゃんと畳んでおけよ。ダリオ兄上から贈られた、大切なドレスだろう?」





 ロレンツォが、ドレスを突き出す。ナーディアは、目をつり上げた。





「まさか! 別に、あいつからプレゼントされたわけじゃないぞ」



「違うのか?」



「違うよ。モンテッラの家に仕立屋を呼んだら、知人に知られそうだから、この屋敷の部屋を借りただけだ。代金は、私が払ってる」





 ロレンツォは、拍子抜けしたような顔をした。





「何だ……。でも、兄上のためのドレスであるのは確かだろう? このままじゃ皺になるぞ。ちゃんと丁寧に扱ってやれ」





「あいつに作らされた、と言ってくれ」





 ぶつぶつ言いながらも、ナーディアはドレスを受け取った。





(ま、ドレス自体に罪はないからな)





 埃を払って畳み、仕立屋が置いていった包み紙で、元通りにくるむ。一息ついてふと見ると、ロレンツォが、むき出しの腕をさすっていた。





「寒いのか?」



「少しな」





 夜が更けたせいで、だんだん冷え込んできている。ナーディアは慌てた。





「悪い! シャツ、返すよ」





 ボタンを外しかけると、今度は彼の方がうろたえた顔をした。





「止めろ! 頼むから、それは着ててくれ。暖炉を焚けば済む話だ」





 妙に気ぜわしく、ロレンツォが暖炉の支度を始める。だが、一応薪はあったものの、なかなか火が点かない様子だった。恐らくは、湿りきっているのだろう。





「仕方ない。酒でも飲むか」





 舌打ちしながら、ロレンツォがキャビネットを一瞥する。そうだな、とナーディアは頷いた。





「なかなかいけるぞ、ここに置いてあるブランデー。実は、ダリオにムカついたから、勝手に飲んでたんだ」





 酒瓶を見せると、ロレンツォは苦笑した。





「家具には気を遣うけど、酒は盗み飲みするのか? ……まあいい、くれ」





 ナーディアの返事を待たずに、ロレンツォは瓶をひったくった。さっきまでナーディアが飲んでいたそれに、ためらいもなく口を付ける。てっきり、新しい瓶を開けるものかと思っていたナーディアは、戸惑った。





(それは、まずいのでは……?)





 ナーディアの動揺に気づいているのかいないのか、ロレンツォは美味そうにブランデーを喉に流し込んでいる。喉仏が上下する様が、妙に艶めかしかった。





(何考えてる)





 意識をロレンツォから逸らそうと、ナーディアはキャビネットから新しい酒瓶を取り出した。黙々と飲んでいると、彼がふとこちらを見た。





「何だよ?」



「いや。今日はえらく華奢に見えるなって。俺のシャツを着たせいかな」





 ドキン、と心臓が跳ねる気がした。全く同じ台詞なら、前にマリーノにも言われたが、あの時は何とも思わなかった。今はなぜ、こんなに動揺しているのだろう。マリーノに言われたように、恋なのだろうか。
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