最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

14

(いや、まさか……)





 長らくそういう感情を胸に封じ込めてきたナーディアには、自分の気持ちがよくわからない。ただ、言えることは一つだった。これが恋であろうがなかろうが、ロレンツォに深入りしてはいけない。彼は、姉フローラの婚約者なのだから……。





「私が華奢なわけはないだろう。もう酔ったのか?」





 わざとからかうように言えば、ロレンツォはムキになったようだった。





「まさか、これくらいで。もう一本取ってくれ」



「言ったな。どちらが先に潰れるか、競争しようじゃないか」





 新たな瓶を差し出せば、ロレンツォはため息をついた。





「危機感を持て、と言ったばかりだろうが……」



「女だからと、見くびるな。私は、これでも強いんだぞ?」





 実を言えば、ロレンツォが来る前に飲んでいたブランデーが効いてきて、やや眠いのだけれど。言い出した手前、引っ込みがつかない。なおも酒瓶を突き出せば、ロレンツォは諦めたように受け取った。





 二人してブランデーを飲んでいると、ロレンツォはふとこんなことを言い出した。





「なあ。子供の頃の話を、聞かせてくれないか」



「そうだな」





 ナーディアは、記憶を辿った。





「そりゃあ、おしとやかな少女だったぞ。フローラ姉様は、昔から刺繍がお得意でな……」



「違う」





 ロレンツォは、ナーディアの言葉をきっぱりと遮った。





「ナーディア。お前の子供の頃の話が聞きたい」
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