最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

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(強かった……)





 少年との試合を終えた後、ナーディアはしみじみと思った。負けた悔しさもさることながら、真っ先に考えたのは、彼とまた戦いたい、ということだった。





 優勝者に決定した少年は、すでに闘技場を出て、表彰式会場へ向かおうとしている。ナーディアは、急いで彼を追いかけた。





『待って! 君、名前は!?』





 息せき切って呼びかけると、少年は、右肩を押さえながら振り向いた。先ほど、ナーディアが切りつけた場所だ。試合中は平気な素振りをしていたが、案外堪えていたらしい。





『ジャンニ』





 少年は、短く答えた。





『君、すごいよ! また、手合わせしてくれる? わた……、僕、は……』





 そこまで言いかけて、ナーディアはハッと気付いた。まさか、モンテッラ家のナーディアとは名乗れないではないか。かといって、コルラードですとも言えない。





(どうしよう……)





 まごまごしていると、ジャンニはにこりと笑い、不意にしゃがみ込んだ。闘技場の外の庭には、色とりどりの美しい花が咲き誇っている。ジャンニは、そこから数輪の花を摘み取ると、ナーディアに押し付けた。可憐な、青い花だった……。





(あれっきり、だったな……)





 ナーディアは、切ない思いで押し花を見つめた。ジャンニとは、二度と会うことはなかった。その理由を、ナーディアは大会からしばらく経ってから知った。





 何とジャンニの一族は、国王陛下への反逆を企てていたのである。当時、マルコ四世は即位したばかりで、彼の弟・チェーザレは、兄を王位から追放しようと、クーデターを計画していたのだ。チェーザレ一派だったジャンニの父親は、あの大会から程なくして、極刑に処せられた。ジャンニとその母親も、謀反人一族として、ラクサンド王国から永久追放されたとのことだった……。





(ジャンニは、知っていたのだろうか。自分を待ち受ける未来を……?)





 わかっていたなら、のんきに大会など出場するわけはなかろうが。だが、ワスレナグサの花言葉は、『私を忘れないで』だ。ナーディアには、これがジャンニのメッセ―ジに感じられて仕方なかった。
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