最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる
第八章 埋まる外堀

1

 目を覚ますと、視界には見慣れた天井が飛びこんで来た。





(――え!?)





 ナーディアは、慌てて飛び起きた。見回せば、そこは紛れもない、騎士団の寮の自室だった。





(いつの間に、帰ったんだ?)





 ナーディアは、昨夜の記憶を必死に辿った。ブランデーで酔い、ロレンツォに化粧を落としてもらっているうちに、眠ってしまった気がする。その後は……、記憶がない。





 時計を見ると、朝だった。ははあ、とナーディアは合点した。帰らないと言っていたが、やはりダリオは、昨晩帰宅したのだろう。そして、眠りこけている自分を、ここまで送り届けたに違いない。





(ふん。それくらいしてもらって、当然だからな)





 勢い良く起き上がったナーディアだったが、下を見てぎょっとした。自分が、シュミーズから着替えさせられていたからだ。男物ではあるが、自分の服ではない。サイズや雰囲気から察するに、ダリオの物でもなさそうだった。





(ということは……)





 ナーディアは、部屋を飛び出した。ロレンツォの部屋へと走る。試しにノックをすると、彼はすぐに出て来た。





「おはよう」





 ロレンツォが、けろりと言う。





「おはようじゃない! 何がどうなってんだ? これは、お前の服か?」



「洗濯の気遣いは無用だぞ」



「ふざけんな。説明しろって言ってんだ!」





 目をつり上げれば、ロレンツォは肩をすくめた。





「そうカリカリするな……。お前が寝ちまった後、やはり脱出できないか考えてな。それで思いついたのが、メイク落としに使ったオイルだ。試しに、扉の蝶番に差してみたら、どうにか動くようになってな。ちょっと苦労はしたが、無事開いた。そこで辻馬車を拾って、お前を連れて帰って来た、というわけだ」





 事情はわかったが、一つ大問題が残っていた。





「その……、この服には、お前が着替えさせたということか?」



「シュミーズのままで辻馬車に乗せるわけにはいかないだろう。俺の部屋から服を取って来て、着せたんだ」





 かあっと、顔が熱くなるのがわかった。





「安心しろ。毛布を巻いて着替えさせたから、見てない」



「だからって! 起こせばいいだろうが!」





 羞恥で、消え入りたい気分だった。
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