最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる
2
「すやすや寝ていたから、起こすのは申し訳なくてな」
ロレンツォに、悪びれる気配はない。微かにではあるが、ナーディアにも昨夜の記憶が蘇ってきた。ずっと、逞しい腕に抱かれていたような気がする。屋敷を出て、馬車に乗せる時だろうか。馬車から降りて、寮の部屋まで運ぶ時だろうか。いや、それよりずっと長い時間だった気がする。
(まさかとは、思うけれど。馬車内でも、ずっとロレンツォに抱かれていた……?)
返ってくる答が怖くて、聞くに聞けない。その場に固まっていると、コツコツと靴音がした。見れば、団長のザウリがやって来る。ナーディアとロレンツォは、そろって挨拶した。
「「おはようございます」」
「おはよう」
「エルネスト様のお加減は、いかがでございましたか?」
ロレンツォが尋ねる。危篤になった伯父のことだろう。ザウリは、深刻な表情で答えた。
「どうにか、峠を越えられた。だが、油断はできないな」
ザウリもフェリーニの血縁だから、昨夜駆け付けたらしかった。
「ところでロレンツォ。お前は昨日、どうしたんだ? フェリーニ邸は、誰もいなかっただろう。帰ったのか?」
ザウリが何気なく尋ねる。ナーディアは、一瞬ドキリとするのを感じた。ロレンツォは、ナーディアを一瞥して、かぶりを振った。
「いえ。昨日はずっと、この寮に留まっておりました」
ナーディアは、思わずロレンツォの顔を見ていた。
(嘘をついた……!?)
だがザウリは、不審に思う様子もなく、そうか、と短く答えた。そして、ナーディアの方を向き直った。
「そうそう、ナーディア。お前に、面会人だぞ。ダリオだ。面会室で待っている」
謝罪に来やがったか、とナーディアは眉を寄せた。
「後で、参ります」
「よろしくな」
ザウリが去って行くと、ナーディアはロレンツォに尋ねた。
「どうして、あんな嘘を?」
ロレンツォは、一つため息をついた。
「お前が、そうして欲しいんじゃないかと思って」
「なぜ、そんな……」
「俺と同じ部屋で過ごしたことを、ダリオ兄上に知られたくないだろう?」
ナーディアは、少し思案した。確かに、知られないに越したことはないだろう。ロレンツォの寮の部屋を訪問したことにも、眉をひそめていたダリオだ。まして、同じ部屋で数時間も共に過ごした、などと知ったら、ガミガミ説教するに違いない。
(男女間のことについては、潔癖な奴だからな)
ナーディアは、心の中で頷いた。疚しいことはなかったとはいえ、ここは伏せておこうか。だが、そこまで考えて、ナーディアはふと違和感を覚えた。本当に、疚しいことはなかったのだろうか。何かがあった気もするのだが、よく思い出せなかった。
ロレンツォに、悪びれる気配はない。微かにではあるが、ナーディアにも昨夜の記憶が蘇ってきた。ずっと、逞しい腕に抱かれていたような気がする。屋敷を出て、馬車に乗せる時だろうか。馬車から降りて、寮の部屋まで運ぶ時だろうか。いや、それよりずっと長い時間だった気がする。
(まさかとは、思うけれど。馬車内でも、ずっとロレンツォに抱かれていた……?)
返ってくる答が怖くて、聞くに聞けない。その場に固まっていると、コツコツと靴音がした。見れば、団長のザウリがやって来る。ナーディアとロレンツォは、そろって挨拶した。
「「おはようございます」」
「おはよう」
「エルネスト様のお加減は、いかがでございましたか?」
ロレンツォが尋ねる。危篤になった伯父のことだろう。ザウリは、深刻な表情で答えた。
「どうにか、峠を越えられた。だが、油断はできないな」
ザウリもフェリーニの血縁だから、昨夜駆け付けたらしかった。
「ところでロレンツォ。お前は昨日、どうしたんだ? フェリーニ邸は、誰もいなかっただろう。帰ったのか?」
ザウリが何気なく尋ねる。ナーディアは、一瞬ドキリとするのを感じた。ロレンツォは、ナーディアを一瞥して、かぶりを振った。
「いえ。昨日はずっと、この寮に留まっておりました」
ナーディアは、思わずロレンツォの顔を見ていた。
(嘘をついた……!?)
だがザウリは、不審に思う様子もなく、そうか、と短く答えた。そして、ナーディアの方を向き直った。
「そうそう、ナーディア。お前に、面会人だぞ。ダリオだ。面会室で待っている」
謝罪に来やがったか、とナーディアは眉を寄せた。
「後で、参ります」
「よろしくな」
ザウリが去って行くと、ナーディアはロレンツォに尋ねた。
「どうして、あんな嘘を?」
ロレンツォは、一つため息をついた。
「お前が、そうして欲しいんじゃないかと思って」
「なぜ、そんな……」
「俺と同じ部屋で過ごしたことを、ダリオ兄上に知られたくないだろう?」
ナーディアは、少し思案した。確かに、知られないに越したことはないだろう。ロレンツォの寮の部屋を訪問したことにも、眉をひそめていたダリオだ。まして、同じ部屋で数時間も共に過ごした、などと知ったら、ガミガミ説教するに違いない。
(男女間のことについては、潔癖な奴だからな)
ナーディアは、心の中で頷いた。疚しいことはなかったとはいえ、ここは伏せておこうか。だが、そこまで考えて、ナーディアはふと違和感を覚えた。本当に、疚しいことはなかったのだろうか。何かがあった気もするのだが、よく思い出せなかった。