最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

3

「どうなんだ?」



 



 ロレンツォが、苛立たしげに催促する。





「昨日のフェリーニ邸は、使用人も少なかった。出入りの際は、誰にも見られていない。ザウリ団長にもああ言ったし、隠し通すことはできるぞ?」





「そうか。まあ、それならダリオには内緒にしておこうか」





 そう答えると、ロレンツォの表情は一瞬歪んだ。自分が言い出したくせに、とナーディアは訝った。





「どうしたんだよ」



「何でもない。面会室で、兄上が待ってらっしゃるんだろ? さっさと行ってあげたらどうだ」



「ロレンツォはダリオに会わないのか?」





 尋ねれば、ロレンツォは呆れたような顔をした。





「そんな野暮な真似ができるか。第一俺は、今日は忙しいんだ。宝石商と会う用がある」



「なるほど」





 ナーディアは、納得した。きっと、フローラへの贈り物に違いない。





「それは、重要案件だな! よし、しっかり選んで来いよ」





 鼓舞するようにそう告げれば、ロレンツォは何だか複雑そうな表情を浮かべて、部屋へ戻って行った。





 ナーディアもまた、自室に戻った。幸いザウリは気付かなかったが、ロレンツォの服を着たままではまずい、とさすがに思い当たったのだ。手早く、普段の男物の服に着替える。





 面会室へと向かうと、果たしてダリオが待っていた。いつも丁寧に整えられているダークブラウンの髪が、珍しく乱れているところを見ると、慌てて駆け付けたのだろう。とはいえ、表情から察するに、反省している気配はなさそうだった。





「昨日は悪かった」





 渋々といった様子で、ダリオが謝罪の言葉を口にする。





「意図的ではなかったが、閉じ込める結果になったようだな。ところで……」





 ムッとしたナーディアは、ダリオの言葉を遮った。





「悪かった、って感じじゃないけど? ブランデーを勝手に飲んだのを、怒ってるわけ?」



「それくらい、いいさ。扉が盛大に破壊されていたことにも、怒っちゃいない。僕は、狭量な人間ではないのでね」





 げっと思ったが、ここはあくまで自分の仕業にしないといけない。ナーディアは、ダリオをぎろりとにらんだ。





「そうよ。屋敷の修繕くらい、ちゃんとやったら? 開かなくて、困ったんだから。オイルがあったから、助かったけど」





 ロレンツォが話した通りに、説明する。だが、自分で言いながら、ナーディアはふと気付いた。化粧落とし用だと言って、キャビネットからオイルを出して来た際、ロレンツォはこう言っていなかったか。





 ――最初にここに入った時、見つけたんだ。





 かなり酔ってはいたが、あの言葉は記憶している。確かに、閉じ込められた当初、ロレンツォは脱出方法を考えながら、あれこれと室内を物色していた。その時に見つけていたのなら、なぜすぐに試みなかったのだろう。
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