最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

4

(ま、その時は思いつかなかったのだろう)





 一瞬浮かんだ疑問を、ナーディアは振り払った。一方ダリオは、ねめつけるようにナーディアを見つめている。そして、こう言い出した。





「一つ聞きたいのだが。君は、あの部屋に一人で閉じ込められていたのか?」





 なぜそんなことを尋ねる、とナーディアはドキリとした。平静を装い、けろりと答えてみせる。





「当たり前じゃない。ダリオが、私を一人にしたのでしょ?」



「……そうか?」





 ダリオの眼差しが、いっそう鋭くなる。





「今朝、僕は屋敷に帰ってすぐ、あの部屋を見に行った。君のことだ、メモを見つけて僕の企みに気付いたら、速攻帰るだろうとは思った。でも、何だか胸騒ぎがしてね。そして、入ってみたら……。室内には、ロレンツォの香水の香りがしたんだ」





 ギクリとした。ダリオが、詰問するように語気を強める。





「君はあの部屋で、ロレンツォと一緒にいたのか?」





 ナーディアは、きっぱりとかぶりを振った。





「まさか。屋敷内で出会ってすらいないわ」



「休日、あいつは必ず屋敷へ戻るはずなんだが……」





 ダリオは、なおも疑わしげな顔をしている。ナーディアは、話題を逸らした。





「知らないって言ってるでしょ。ところで、私が着て来た服は持って来なかったわけ? ちゃんと返してよね」



「ああ、あれね。もちろん、お返しはするけれど……」





 ダリオはにやりとした。





「せっかくだから、新しい物にしてお返しする、というのはどうだろう」



「まさか、またドレスって言う気じゃないでしょうね」





 ぎろりとにらめば、ダリオは、バレたかと言いたげに肩をすくめた。





「閉じ込めたお詫びもかねて、一着プレゼントしようかと思ったのだが」



「要らないから、着ていた服を返してちょうだい!」





 きつい声音で告げれば、ダリオは仕方なさそうに頷いた。ナーディアが身に着けている男物の服を、恨めしげに見つめている。





「わかったよ……。でも君も、少しは服装を改めたらどうだ? そんな風に、男のなりばかりしていないで……。でないと、婚約披露パーティー当日、後悔するぞ?」





「余計なお世話!」





 ナーディアは、反射的に言い返していた。だがパーティー当日、ナーディアはダリオの言葉の意味を、実感することになったのだった。
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