最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる
5
婚約披露パーティー当日の朝、ナーディアはコソコソと、寮の自室を出た。今日は、休みを取っている。フローラの支度を手伝うという名目で、モンテッラの実家へ戻るのである。もちろん、それもあながち嘘ではないが、自分自身の着付けを侍女にしてもらうというのが、大きな目的だった。
悪いことをしているわけでもないのに、何やら妙に気まずい気分だ。ドレスの包みを抱えて、抜き足差し足廊下を歩いていると、背後から声をかけられた。
「よう、ナーディア!」
ドキリとして振り返ると、騎士団の同僚たちだった。
「今夜のパーティーだけど。俺たち、連れ立って会場入りするつもりなんだ。お前も、一緒にどうだ?」
彼ら男性騎士は、王宮近衛騎士団の制服で出席するため、寮からそのまま向かうのである。ナーディアも、公式行事ではいつも制服姿だから、当然今回もそうだと思われたらしかった。
「悪い。早めに実家へ行って、姉の支度を手伝わないといけないから」
制服で出られる彼らを羨ましく思いながら、そう答えると、皆合点したように頷いた。
「そういえば、そうか。じゃあ、会場でな」
去って行く彼らを、ほっとした思いで眺めていると、背後からポンと肩を叩かれた。思わずびくっとして振り返ったが、そこにいたのはロレンツォだった。
「何だよ。お前、早くフェリーニの家に行かなくていいのか?」
女性のフローラほどではないが、色々と準備があるだろうに。ナーディアは気を揉んだが、ロレンツォは妙に真剣な表情だった。
「もちろん、行くが。その前に、少しいいか? 来て欲しい」
そう言ってロレンツォは、ナーディアを面会室へと連れて行った。二人きりになると、彼は言いづらそうに口を開いた。
「その……。今日は、あのグレーのドレスを着るのだろう? アクセサリー類も、あの時一緒にあった品を着けるのか?」
「もちろん。他にアクセサリーなんて、持っていないもの」
きっぱりと答えれば、ロレンツォはやや呆れた顔をした。
「堂々と言うことか……。いや、実はな。占星術によると、ブラウンダイヤはお前に悪い運をもたらすらしい、とわかったんだ」
「ええ!?」
ナーディアは、仰天した。
「じゃあ、あのネックレス……」
「うん、着けない方がいい。どうしても着けたい理由があるのなら、別だが……」
「いやいや! ないよ、そんなの。アクセサリーのことなんてよくわからないから、一式、仕立屋に見つくろってもらったんだ」
仕立屋はナーディアの誕生日まで知らないから、よもやと思ったのだろう。そういえばロレンツォはなぜ知っているのか、と一瞬訝ったが、フローラから聞いたのだろうと納得する。
「それなら、止めておけ。とはいえ、他にネックレスを持っていないのじゃ、胸元が寂しいだろう」
そう言ってロレンツォは、おもむろに小箱を取り出した。
悪いことをしているわけでもないのに、何やら妙に気まずい気分だ。ドレスの包みを抱えて、抜き足差し足廊下を歩いていると、背後から声をかけられた。
「よう、ナーディア!」
ドキリとして振り返ると、騎士団の同僚たちだった。
「今夜のパーティーだけど。俺たち、連れ立って会場入りするつもりなんだ。お前も、一緒にどうだ?」
彼ら男性騎士は、王宮近衛騎士団の制服で出席するため、寮からそのまま向かうのである。ナーディアも、公式行事ではいつも制服姿だから、当然今回もそうだと思われたらしかった。
「悪い。早めに実家へ行って、姉の支度を手伝わないといけないから」
制服で出られる彼らを羨ましく思いながら、そう答えると、皆合点したように頷いた。
「そういえば、そうか。じゃあ、会場でな」
去って行く彼らを、ほっとした思いで眺めていると、背後からポンと肩を叩かれた。思わずびくっとして振り返ったが、そこにいたのはロレンツォだった。
「何だよ。お前、早くフェリーニの家に行かなくていいのか?」
女性のフローラほどではないが、色々と準備があるだろうに。ナーディアは気を揉んだが、ロレンツォは妙に真剣な表情だった。
「もちろん、行くが。その前に、少しいいか? 来て欲しい」
そう言ってロレンツォは、ナーディアを面会室へと連れて行った。二人きりになると、彼は言いづらそうに口を開いた。
「その……。今日は、あのグレーのドレスを着るのだろう? アクセサリー類も、あの時一緒にあった品を着けるのか?」
「もちろん。他にアクセサリーなんて、持っていないもの」
きっぱりと答えれば、ロレンツォはやや呆れた顔をした。
「堂々と言うことか……。いや、実はな。占星術によると、ブラウンダイヤはお前に悪い運をもたらすらしい、とわかったんだ」
「ええ!?」
ナーディアは、仰天した。
「じゃあ、あのネックレス……」
「うん、着けない方がいい。どうしても着けたい理由があるのなら、別だが……」
「いやいや! ないよ、そんなの。アクセサリーのことなんてよくわからないから、一式、仕立屋に見つくろってもらったんだ」
仕立屋はナーディアの誕生日まで知らないから、よもやと思ったのだろう。そういえばロレンツォはなぜ知っているのか、と一瞬訝ったが、フローラから聞いたのだろうと納得する。
「それなら、止めておけ。とはいえ、他にネックレスを持っていないのじゃ、胸元が寂しいだろう」
そう言ってロレンツォは、おもむろに小箱を取り出した。