最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

16

 マリーノが去った後、ナーディアはテラスのカウチで一人、呆然と座り込んでいた。すぐにでも追いかけて弁明したいのはやまやまだが、足が痛くて動けそうになかった。





 誰もいないので、ナーディアは思い切って靴を脱いでみた。ついでに靴下も取り去れば、見事にマメができている。ふと脱いだ靴を見れば、さりげなくブラウンの刺繍が施されていて、怒りが込み上げてきた。





(全部、グレーとブラウンで固めやがったな……)





 デザインは全部任せると言った時の、仕立屋の意味深な笑みが蘇る。きっと、ダリオから指示されていたのだろう。彼女はダリオの母親の贔屓だったというから、彼の言うことなら何でも聞くに違いない。





(まあ、気付かなかった私が間抜けなんだけど)





 初めてのドレスに緊張したナーディアは、ちゃんと着られるかということしか頭になかった。目立ちたくないので、色味も、とにかく地味にとしか考えていなかったのである。





(でも、ネックレスだけは、思い通りにならなかったな。ざまあみろ)





 このサファイアのネックレスを見たダリオの、不機嫌そうな表情が蘇り、少しだけ胸がすく。そこでナーディアは、ハッと気付いた。ロレンツォは、もしかしてわざと、ネックレスを取り替えるように仕向けのだろうか……。





 室内からは、軽快な音楽が聞こえてくる。ダンスタイムが始まったようだった。





(ロレンツォとフローラ姉様、無事ダンスを披露されているのだろうか……)





 宮廷舞踏会でも見たが、二人のダンスは絶妙に息の合った華麗なものだった。ダンスの相性の良い男女は、性格の相性も良いと聞いたことがあるから、あの二人もきっとそうなのだろう。今日の招待客らも、『お似合いのお二人だ』と口をそろえて言っていた。見に行きたいが、とても動ける状況ではない。





(見たかったな……)





 その時だった。ナーディアにとって、今、最も憎らしい人間の声が飛びこんで来た。





「ここにいたのか。捜したぞ」



「ダリオ、ちょうどいい。お前に聞きたいことがある」





 ダリオが眉をひそめたのがわかったが、ナーディアはあえて男言葉を使った。そうしたい気分だったのだ。





「ザウリ団長に、私と結婚したらどうとか、ふざけたことを抜かしたそうだな。何の恨みがあって、そんな嫌がらせをする!」





「嫌がらせ……だと?」





 ダリオはナーディアの隣に腰かけると、じっと顔を見つめてきた。





「まさか。僕は、本気で君を妻に迎えたいと思っているが」
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