落ちぶれ令嬢として嫁いだら、 黒騎士様の溺愛が待っていました
 青い目。
 束の間、プラチナの視界に空が広がった。男の目の中に、果ての無い青空の幻覚を見る。

 碧眼に漆黒の男は、だが際立って端整な顔貌をしていた。彫刻のように深い目鼻立ち、高い鼻筋。少し色の薄い、しかし整った形の唇。そのすべては、プラチナがまったく見たことのない種類の人間だった。戦場に立つような佇まいとは対照に、粗暴さや荒々しさは微塵もなく、ため息をついて見とれるような容貌をしている。年の頃は、二十の半ばか後半だろうか。

 男の青の目もまた冷ややかにプラチナを眺め、ほんのわずかに右に――右肩に止まっている小竜に――向くと、わずかに目元を歪めて不快感を示した。
 プラチナの耳元で、フィーもまたうなるような音を発した。

 男の目がフィーから逸れ、その唇から言葉が発せられる。

「彼女が〝竜使い〟であると?」

 肌を刺すような緊迫した場に、穏やかとさえ言える声が響く。通りがよく、だがそこに媚びや弱さは一切紛れ込んでいない。
 今度は、青い目の男の向こう――豪奢な衣装に身を包んだ中年の、ミトロジア王と思しき男性が言った。

「そ、そうだ。その娘は、我が国でも古い血筋たるシェーヌ家の直系で、今代の竜姫の従姉妹にあたる! シェーヌは元をたどれば我が王族の遠い親戚にあたり、我が国でも屈指の〝竜使い〟であり、シェーヌの人間は他国に嫁ぐことを禁じられている! それほど、価値のある血統で……」
「なるほど。それにしては、丁重に扱われているようには見えませんね。いまや、ミトロジアにおいても竜使いの才を持つ者は少なくなってきているとうかがっていますが」

 青い目の男が穏やかに、そして冷徹に言った。ミトロジア王がわずかに言葉に詰まる。

「そ、その者は五年前に父母を亡くし、叔父にあたる者に引き取られたのだ。シェーヌの才は貴重であるため、みだりに使うことのないよう戒めて育てているのであろう」
「ほう? まるで修道士のようですね。もっとも、修道士の方がもう少し正当性を感じる扱われ方をしていますが」

 プラチナは言葉も紡げずに固まっていた。青い目の男の向こう、王の他に側近たちがいることにはじめて気づく。みな、一様に顔色が悪かった。

「竜使いの血を差し出すというならば、《ミトロジアの竜姫》がふさわしいはずですが」

 碧眼の男がそう告げたとたん、プラチナは息を詰めた。それ以上に、ミトロジア王と重臣たちが悲鳴ともうめきともつかぬ声をもらす。
 ――《ミトロジアの竜姫》。この国における最上級の称号であるそれは、プラチナの従姉妹であるマルヴァに冠せられたものだった。

「あれは、あれだけは我が国の宝――我が国の心臓ともいうべきものだ! もっとも素質ある竜使いを、どのような相手であろうと渡すことはできぬ! 多額の金に加え、竜姫まで要求するとなれば我が国に滅びを命じているに等しい!」
「ほう。心臓を差し出す覚悟もなく我が国に牙を剥いたと?」

 碧眼の男はあくまで温厚な声で言う。その声に侮りや怒りを持って噛みつく者はいなかった。
 一体何が起こっているのか。プラチナには見当もつかない。すべてが理解の範囲を超えていた。ただ、ミトロジアの王たちにとって極めて好ましくない状況が起こっているということだけはわかった。

 それを引き起こしたであろう碧眼の男に目を戻し、プラチナは無意識にこぼしていた。

「あなたは……」

 男がゆったりと一度瞬く。涼やかな目を囲む睫毛は長く、濃い闇の色をしていた。

「失礼、紹介が遅れました。私はヴァルテール・ラーヴ・エヴェイユ。イストワールの王に仕える騎士です。あなたの名は?」
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