落ちぶれ令嬢として嫁いだら、 黒騎士様の溺愛が待っていました
――このミトロジアは竜と竜使いの国だ。
遙か昔、母なる大地の竜があり、母なる竜は大いなる歌を奏でて土地を生み、岩を、木々を、川を、湖を生んだと伝えられている。母なる竜が生んだ土地とそこから生じたすべてがミトロジアの始まりだった。
母なる大地の竜に最初に生み出された生き物は竜と呼ばれた。
次に母なる大地の竜から生まれた最初の人間、はじめのミトロジア人は〝竜使い〟と呼ばれた。
ミトロジア以外の国で、竜種と呼べる生き物、竜種に対する異能を持つ竜使いがほとんどいないのはそのためだとも言われていた。
竜種は、鳥類とも地に生きるどの獣とも異なる独立した生物のことを指す。その中で大きな翼を持って空を飛ぶものもあれば、強靱な足で地を駆けるものもあった。
どの竜にも共通しているのは、独自の言語――竜の言葉を持っていることだ。この竜の言葉を理解し、用いて竜と意思の疎通ができる者こそが〝竜使い〟だった。
プラチナはどの竜種も愛していたが、特に空を飛ぶ竜の姿は壮観で、毎日飽きずに眺めていられた。
――竜は、この国を守る存在でもある。遙か昔、他国との戦においても竜を操る竜使いは力において敵を圧倒した。それ以来、竜と竜使いのいるミトロジアは特別であり、不可侵なのだという。王子の婚約者であるマルヴァを通して、プラチナは何度かそんな話を聞いた。
プラチナはミトロジアを出たことがなく、外の国のことはあまりわからなかった。叔父や叔母がたまに、外にあるらしい国が挑発的な動きをしているとか、厚顔にも他国を併呑しているなどと愚痴っているのを聞くくらいだ。ミトロジアにいてはわからないが、外ではある国が別の国を吸収したり分裂したりしているらしい。
だが、少なくともミトロジアは長く平和であり、何も変わることはなかった。
陽竜の影が完全に見えなくなると、プラチナは巨大な風車へ向かった。
竜舎は、背の高い風車にも見える。普通の厩舎と違うのは、飛竜型を多く住まわせる場所であるから、巨大な止まり木のような形が必須ということだ。
プラチナは右肩に顔を向け、そこに乗っている小さな竜を優しく撫でた。
「〝フィー、下がってて〟」
『うー……』
フィーはまた、低く不満げな声をもらす。が、プラチナの言葉に従い、小さな翼を羽ばたかせて肩から離れ、プラチナの後方に下がった。
プラチナは長大な風車の足元まで来ると、頭上を見た。そして、思い切り息を吸い――
「〝来て、マルヴァの竜たち!〟」
高らかに、歌うような音で竜の言葉を発した。
遙か昔、母なる大地の竜があり、母なる竜は大いなる歌を奏でて土地を生み、岩を、木々を、川を、湖を生んだと伝えられている。母なる竜が生んだ土地とそこから生じたすべてがミトロジアの始まりだった。
母なる大地の竜に最初に生み出された生き物は竜と呼ばれた。
次に母なる大地の竜から生まれた最初の人間、はじめのミトロジア人は〝竜使い〟と呼ばれた。
ミトロジア以外の国で、竜種と呼べる生き物、竜種に対する異能を持つ竜使いがほとんどいないのはそのためだとも言われていた。
竜種は、鳥類とも地に生きるどの獣とも異なる独立した生物のことを指す。その中で大きな翼を持って空を飛ぶものもあれば、強靱な足で地を駆けるものもあった。
どの竜にも共通しているのは、独自の言語――竜の言葉を持っていることだ。この竜の言葉を理解し、用いて竜と意思の疎通ができる者こそが〝竜使い〟だった。
プラチナはどの竜種も愛していたが、特に空を飛ぶ竜の姿は壮観で、毎日飽きずに眺めていられた。
――竜は、この国を守る存在でもある。遙か昔、他国との戦においても竜を操る竜使いは力において敵を圧倒した。それ以来、竜と竜使いのいるミトロジアは特別であり、不可侵なのだという。王子の婚約者であるマルヴァを通して、プラチナは何度かそんな話を聞いた。
プラチナはミトロジアを出たことがなく、外の国のことはあまりわからなかった。叔父や叔母がたまに、外にあるらしい国が挑発的な動きをしているとか、厚顔にも他国を併呑しているなどと愚痴っているのを聞くくらいだ。ミトロジアにいてはわからないが、外ではある国が別の国を吸収したり分裂したりしているらしい。
だが、少なくともミトロジアは長く平和であり、何も変わることはなかった。
陽竜の影が完全に見えなくなると、プラチナは巨大な風車へ向かった。
竜舎は、背の高い風車にも見える。普通の厩舎と違うのは、飛竜型を多く住まわせる場所であるから、巨大な止まり木のような形が必須ということだ。
プラチナは右肩に顔を向け、そこに乗っている小さな竜を優しく撫でた。
「〝フィー、下がってて〟」
『うー……』
フィーはまた、低く不満げな声をもらす。が、プラチナの言葉に従い、小さな翼を羽ばたかせて肩から離れ、プラチナの後方に下がった。
プラチナは長大な風車の足元まで来ると、頭上を見た。そして、思い切り息を吸い――
「〝来て、マルヴァの竜たち!〟」
高らかに、歌うような音で竜の言葉を発した。