落ちぶれ令嬢として嫁いだら、 黒騎士様の溺愛が待っていました
『……プラチナ……、プラチナ! 起きる‼』
忙しない羽音と、頭の中にまで響くような竜の声でプラチナははっと目を覚ました。
顔のすぐ側で、ハチドリのように羽ばたいている小さな竜の姿が見える。
「フィー……?」
『起きる!』
急かすようなフィーの声に、プラチナは何度も瞬(またた)いてから体を起こし、立ち上がった。痛みに顔を歪める。通りで倒れ、意識を失っていたらしかった。
「何が、あったの……?」
黒い煙に包まれたことを思い出す。自分の体を見下ろしても汚れや異常はなく、周りを見回しても、黒い煙もそれらしき痕跡も見当たらない。焦げたような臭いもない。まるで白昼夢のようだった。
ふいに竜の叫びがプラチナの耳を打った。はっとして顔を上げる。
夕焼けの空に、陽竜だけではない、このミトロジアに住まう多くの竜たちがけたたましく飛び交っていた。遠目にも彼らの気が立ち、異常な様子であることはすぐにわかった。
「何が起きているの、フィー!?」
フィーが言葉にならない声、音を発している。フィーもまた落ち着きをなくしている。
今度は地上に騒音が起こり、プラチナは目を戻した。人の怒号、急き立てられる馬の蹄(ひづめ)が通りを蹴る音が近づいてくる。
大通りを、王宮の衛兵か近衛兵と思しき騎兵たちが駆けてくる。
「プラチナという者はどこだ! どこにいる!」
騎兵たちがそう叫び、プラチナは目を見張った。打たれたように立ちすくんでいると、先頭の騎兵がプラチナに気づいた。
そして一直線に向かってくる。
『プラチナ、逃げる!』
フィーの叫びで、プラチナはようやく動いた。だが身を翻す間もなく騎兵に追いつかれ、囲まれる。蹄が石を叩く音、馬のいななきが耳を打つ。騎兵の一人が馬を飛び降りた。
「青銀の小竜を従えた、銀髪に翠の目の若い女! お前がプラチナだな!?」
「そ、そうです。何が起こったのですか。マルヴァさまの従竜や他の竜たちに何か――」
「王命だ! 来い!」
下りた男が突然プラチナの腕をつかみ、引きずろうとする。だが礫のようにフィーが飛び出し、男の顔にぶつかった。プラチナをつかんだ手が離れる。
「離れろ! この……、獣が! 王命に逆らうか‼」
「フィー、だめ! やめてください!」
男は腕を振り回して小さな竜を追い払おうとし、フィーは素早くその手を避け、また男の顔に突進する。男が顔を赤くして腰の剣を抜き、仲間の騎兵も馬上で同じ動きをしたのを見てプラチナは青ざめた。
「〝フィー、だめ! お願い!〟」
竜の言葉を必死に喉から絞り出して両手を広げた。飛び回っていたフィーが、怒りと不満の声をあげながらプラチナの腕の中に舞い戻る。
プラチナは胸に押しつけるように両腕でしっかりと小さな竜を抱え、男たちに応じた。
「行きますから、この子を傷つけないでください」
男たちは顔を歪めて苛立たしげな息を吐いたが、剣を鞘に納めた。
「さっさと来い」
プラチナは不安の気持ちごとフィーを強く抱きしめ、騎兵たちに従った。
忙しない羽音と、頭の中にまで響くような竜の声でプラチナははっと目を覚ました。
顔のすぐ側で、ハチドリのように羽ばたいている小さな竜の姿が見える。
「フィー……?」
『起きる!』
急かすようなフィーの声に、プラチナは何度も瞬(またた)いてから体を起こし、立ち上がった。痛みに顔を歪める。通りで倒れ、意識を失っていたらしかった。
「何が、あったの……?」
黒い煙に包まれたことを思い出す。自分の体を見下ろしても汚れや異常はなく、周りを見回しても、黒い煙もそれらしき痕跡も見当たらない。焦げたような臭いもない。まるで白昼夢のようだった。
ふいに竜の叫びがプラチナの耳を打った。はっとして顔を上げる。
夕焼けの空に、陽竜だけではない、このミトロジアに住まう多くの竜たちがけたたましく飛び交っていた。遠目にも彼らの気が立ち、異常な様子であることはすぐにわかった。
「何が起きているの、フィー!?」
フィーが言葉にならない声、音を発している。フィーもまた落ち着きをなくしている。
今度は地上に騒音が起こり、プラチナは目を戻した。人の怒号、急き立てられる馬の蹄(ひづめ)が通りを蹴る音が近づいてくる。
大通りを、王宮の衛兵か近衛兵と思しき騎兵たちが駆けてくる。
「プラチナという者はどこだ! どこにいる!」
騎兵たちがそう叫び、プラチナは目を見張った。打たれたように立ちすくんでいると、先頭の騎兵がプラチナに気づいた。
そして一直線に向かってくる。
『プラチナ、逃げる!』
フィーの叫びで、プラチナはようやく動いた。だが身を翻す間もなく騎兵に追いつかれ、囲まれる。蹄が石を叩く音、馬のいななきが耳を打つ。騎兵の一人が馬を飛び降りた。
「青銀の小竜を従えた、銀髪に翠の目の若い女! お前がプラチナだな!?」
「そ、そうです。何が起こったのですか。マルヴァさまの従竜や他の竜たちに何か――」
「王命だ! 来い!」
下りた男が突然プラチナの腕をつかみ、引きずろうとする。だが礫のようにフィーが飛び出し、男の顔にぶつかった。プラチナをつかんだ手が離れる。
「離れろ! この……、獣が! 王命に逆らうか‼」
「フィー、だめ! やめてください!」
男は腕を振り回して小さな竜を追い払おうとし、フィーは素早くその手を避け、また男の顔に突進する。男が顔を赤くして腰の剣を抜き、仲間の騎兵も馬上で同じ動きをしたのを見てプラチナは青ざめた。
「〝フィー、だめ! お願い!〟」
竜の言葉を必死に喉から絞り出して両手を広げた。飛び回っていたフィーが、怒りと不満の声をあげながらプラチナの腕の中に舞い戻る。
プラチナは胸に押しつけるように両腕でしっかりと小さな竜を抱え、男たちに応じた。
「行きますから、この子を傷つけないでください」
男たちは顔を歪めて苛立たしげな息を吐いたが、剣を鞘に納めた。
「さっさと来い」
プラチナは不安の気持ちごとフィーを強く抱きしめ、騎兵たちに従った。