夜這いを命じられたら、国王陛下に愛されました

新王セウリス・ガキア 4

9.



「私生児だろうな」

 政務も終わりに近づき、夕も暮れ始めた時間。セウリスは書類を一度置き、珈琲を飲みほした顔で言った

「まぁ、そうでしょうね。世間から秘匿された令嬢と言ったところでしょうか」
「でもアッシュに令嬢だと判断されたんでしょ?なら教育はきちんと受けてるんじゃない?そんなめんどくさいことをするぐらいなら引き取ったほうがマシじゃない?」
「どうだろうな」

 顔を顰めセウリスは言った。珈琲は苦手だが、疲れには効く(※注 効きません)

「貴族入りするという事はいずれ社交界デビューする事と同義だ
 社交界は金がかかる。令嬢なら尚更だ」
「そうでしょうか。スペンドールですよ。金なら有り余るほどあるでしょう」
「そうなの?」
「えぇ、歴史も長いですし、先祖代々の金ならたくさん。まぁ、今代は使うだけでしょうけど」

 馬鹿にするようにクレトは微笑んだ
 守銭奴め。うえっとオリヴェロの顔が歪んだ

「馬鹿ですね、オリヴェロ。金は使うモノではなく増やすものです。養う者がいるのなら尚更」
「へーへー。いつもいつもお熱いことで」
「嫉妬ですか?見苦しいですよ?」
「はあん?喧嘩なら買うよ!?」
「やめろ。お前たちの方が見苦しい。そのくだらない喧嘩、いつまで続けるつもりなんだ」

 まさか、死ぬまでか?とうんざり顔でセウリスは頬杖をついた
 セウリスの言に一気に冷めた二人はうん?と顔を見合わせ、

「「まさか」」

 否定する

「‥‥変な所で意気投合するな」
「まさかまさか。オリヴェロとの喧嘩に時間を割くほど私は暇ではないです」
「そーそー。俺だって守銭奴に時間かけてらんないの。こいつと喧嘩してる暇があったら城内の可愛い子、デートに誘ってるもん」
「しれっと俺のものに手を出すなよ」
「えっ、陛下こそしれっと城内の全女性俺の物宣言‥‥?」
「違うわッ!!」

 正しく城内の人・物は国王であるセウリスの所有物だが、そういう意味で言った訳じゃない
 ここに剣があったら本気で切っていたとオリヴェロの頭を強めに叩く

「痛ッ‥‥‥‥!」
「今のはオリヴェロが悪いですね。間違っているかはともかく」
「クレト!」
「落ち着いてください、陛下
 城内の全女性俺の物宣言はどうあれ、そういった女性を早く迎えてほしいというのはこの場に居る者全員の総意です」

 綺麗に話の矛先をそらしたクレト
 セウリスはぎゅっと眉間にしわを寄せ、固まる

「そろそろですかねぇ、大臣」
「そうですな。そろそろ、陛下の妃となる方の選定を始めたいところ、ですかな」
「やはり、華麗に陛下を収めてくれるる方が欲しいですね。となるとやはり、教育水準が高い公爵家や侯爵。宰相のご息女も聡明と訊きますし」
「スペンドール家も侯爵ですが、今回の件がありますので、外した方がよさそうですな」
「どう思います、陛下?‥‥‥陛下、逃げないでください。ちゃんと聞いてますか?」

 本格的に将来の王妃の話を熱心に進めていたクレトと大臣
 セウリスは忙しすぎて聞こえませんよと素早く書類を捌き、こちらに視線もやらず、アピール。子供のような行動にクレトは人目をはばからず、溜息を吐いた

「‥‥仕方ありません。この話はまた後日。大臣、後日候補の令嬢の資料をくださいますか。こちらで一度強制的に、いえ、諭して陛下にお見せしますから」
「ほほほ、わかりました。明日にでもお持ちしましょう」
「助かります、
 陛下、陛下‥‥‥陛下、政務はこれくらいで終わりにしましょう」

 そろそろと伺うように視線を上げたセウリスの顔は完全に疑い一色。甘い言葉で誘おうとしてないだろうなというクローゼットの陰に隠れる子供そのものの視線と渋い顔にまたクレトは溜息を吐いた

「陛下の寝所に侵入者がいるのですよ?早々に片づけなければ。そうでしょう?」
「‥‥そうだな」
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