悩める転生令嬢は、一途な婚約者にもう一度恋をする ~王族男子は、初恋の人を逃がさない~
 勉強、レッスン、外出、ジークベルトに会う……。
 いつも通りに過ごしているうちに、お茶会の日はあっという間にやってきた。
 シュナイフォード家主催の会に出席するのは初めてのことじゃない。
 でも……。

「わ、わあ……」

 庶民の感覚も持つ私は、何度見たって「す、すご……」みたいな気持ちになってしまう。
 普段はその一画でお茶を飲んだりしている中庭に、たくさんの人。
 華やかな衣装、美しく咲き誇る花々……。
 お茶会というだけあって食べ物はデザート類が多いけど、食事になるものも用意されている。
 ちなみに、シュナイフォード家はデザートが特に美味しいと評判だ。
 すっごく綺麗だし、美味しいものもたくさんの夢の空間って感じだけど、自分が放り込まれるとちょっと辛い。

 でも、私はアイナ・ラティウスとしてこの場にいる。
 水色のドレスに身を包んで髪もアップにし、見た目もそれっぽくした。
 堂々としなければ。
 頑張ろう……! と表には出さずに意気込んでいたとき、

「アイナ」
「ひゃわう!?」

 急に後ろから声をかけられて、おかしな声を出してしまった。
 声の主は、もちろんジークベルト。
 彼は彼で、ちょっと驚いたような顔をしている。

「えっと……。そろそろ始まるから、僕と一緒にいてくれるかな?」
「は、はい……」

 彼の言葉通り、間もなく開会が宣言された。

 それからはとても忙しかった。
 参加者が次々と私たち……正確にはジークベルトの元へ挨拶に来る。
 美味しいお茶や食べ物が用意されているのに、飲み食いする暇なんてありはしない。

 お茶会とだけ聞くとなんだか平和な感じだけど、この国の貴族や王族が行うそれは、子供同士の交流がメインのパーティーみたいなものだったりする。
 座って温かいお茶を楽しむもよし、冷たい飲み物を手にしながら立って話すもよしで、過ごし方はわりと自由。
 穏やかな季節であれば庭を使うことも多い。

 交流の目的も、気の合う友人や仲間作りであったり、婚約相手探しであったり、コネクション作りであったりと色々だ。
 個人的に集まってお茶を楽しむ場合もお茶会と呼んだりするから、文脈で判断しなくちゃいけない。

 主催者側であり王族でもあるジークベルトは大忙し。
 私も彼の隣で微笑みっぱなしで、頬の筋肉がぴくぴくしてくる。
 余裕ある笑顔を絶やさず会話もこなす彼は、もっと大変なんだろう。
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