ワケありモテ男子をかくまうことになりました。
手を洗い終え、エプロンに身を包んだ杏月がやる気にみなぎっている声でそう言う。
「はは、やる気満々だね」
「そう言う凛大くんだって、その軍手は何?」
「ああ、これ? 米を炊くためのものさ!」
凛大は杏月にドヤ顔をしながら腕を突き上げた。
各自自分に与えられた役割をこなしていく。
私は偶然にも同じ係になってしまった犬飼くんと一緒に野菜を切っている。
肩と肩が触れそうなほどに距離が近くて、料理に全く集中できない。
「……、その人参、切る前にピーラーで皮剥いて」
犬飼くんから話しかけられて、分かりやすくビクッと肩を震わせた私。そんな私を見て、犬飼くんは申し訳無さそうに眉を下げた。
「ごめん、急に話しかけて。俺がここにいると気まずいよね」
そのままどこかに行ってしまいそうになった犬飼くんの手首を思わず掴んでしまう。
「気まずいけど、犬飼くんがいなくなる必要はどこにもないよ」
私はしっかりと犬飼くんと目を合わせてそう言った。犬飼くんはわずかに表情を変え、苦しそうな目で私を見た。
今、犬飼くんがどんな感情なのか分からないけれど、なぜだかこのまま中途半端な感じのまま時が過ぎていくのは嫌だと思った。
「人参の皮、一緒に剥こうよ」
精いっぱい、勇気を出した。これまで人と親しくなるのを避けていた私が、自分から一歩、いや半歩だけ近づいた。