ワケありモテ男子をかくまうことになりました。


勉強を終え、洗面所で歯磨きをする。

私の隣には、背の高い犬飼くんがいる。


あの梅雨の日、道端に小さくうずくまっていた男の子と随分とかけ離れた犬飼くんのことを、もう子犬だなんて呼べなくなっていた。


「ねえ雨宮さん。俺から二つお願いがあります」


歯磨きを終え、結っていた髪を下ろして櫛でとかしていた私に、犬飼くんが改まった口調で言った。


「な、何?」


私は思わず身構えてしまう。


「俺たち、これからも一緒に生活する仲じゃん? だからさ、……雨宮さんのこと、そろそろ下の名前で呼んでもいいかなってはなし」

「な、何言ってるの……」

「だって、ずっと名字呼びって他人行儀すぎて嫌なんだもん」


そう言って、期待した顔で私を見つめてくる犬飼くんから目を逸らしたい気持ちでいっぱいだった。

この状況から抜け出すためには、「うん」と頷く以外選択肢はないだろう。


「……いい、よ。でも私は、ずっと犬飼くんって呼ぶからね!」

「えー、でも〝ゆい〟はツンデレさんだから仕方ないか」


いたずらっぽく笑い、さっそく私の名前を呼んだ犬飼くんに、何とも言えない抑えがたい感情が胸の中で暴れた。


「……っもういい? 私、寝室行くか、」

「まだ」

「まだあと一つ、お願いが残ってる」


逃げようとした私を行かせまいと、犬飼くんの手が私の腕に触れた。

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