君という鍵を得て、世界はふたたび色づきはじめる〜冷淡なエリート教授は契約妻への熱愛を抑えられない〜
「ベーグルです。生地にお野菜のペーストを混ぜて、ささやかですが健康に配慮をさせていただきました」

 と、はにかんだ笑顔で言う。

 たしかに昨夜はキッチンでなにか作っているような物音がしていたが、まさか俺のためとは。
 彼女とて、大学の予習復習や来年度のための受験勉強で忙しいというのに、俺のためにそんな時間を割くなんて……。

 なんと返事するのが正解か判からなくて言葉に詰まっていると、彼女は慌てて付け加えた。

「ごめんなさい図々しいことをして。邪魔だったら、捨ててくださっていいですから」
「い、いや、そんな。……ありがとう。クッキーも美味しかったし、きっとこれも美味しいんだろうな」

 美良の不安げな表情が、瞬時に笑顔に変わった。

「はい! 自信作ですよ!」
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