先輩を可愛い、かわいいと言っていいのは僕だけです
「先輩方、すいません。作業の邪魔なんですけど? 退いてもらっていいですか?」

 ここまで黙っていた本宮君が口を開く。
 明るく人懐っこい涼介が輪の中心に居るのに対し、本宮君は基本無口で他人を寄せ付けない。そのクールな振る舞いを遠目に眺める女子が殆どだ。

 本宮君は涼介を含め、あ然とする周囲に構わず、わたしの手からじょうろを取った。その際、小指と小指が少しだけ触れる。

 すると口角を上げ、笑う。切れ長な目元は確かに冷たそうな印象を受けるが、笑えば大人びて色気がある。

「先輩、行きましょうか」

「え、あ、うん。じょうろ、わたしが持つよ」

「いえ、僕が持ちます」

 花壇の世話ではじょうろを始め、バケツやハサミなどの道具が必要。本宮君はそれらの運搬を率先してやってくれるのだ。

 手早く荷物を纏めて、本宮君は涼介の脇を通り抜けていく。わたしも彼の背中を追おうとすると、ぼそり、誰かが吐き捨てた。

《涼介君といい本宮君まで、あの子の何処がいいんだろうね?》
《可愛くないのに》
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