恋の毒
「意外と早かったね」


 高城君は、昇降口にいた。

 高城君の姿を見て、私は盛大にため息をつく。


 もう、本当に相手してられない。


 私は見なかったことにして、校舎を出る。


 後ろに高城君の気配を感じるけど、さっきのようにしつこく声をかけてくることはなかった。


 これはこれで怖い。

 かといって話しかけられても困るから、そのままにしておいた。


 家を知られるのは嫌だったので、私はよく行く秋桜畑に向かった。


 ただ秋桜が咲いているだけのその場は、暇を持て余してしまうのか、綺麗なのに人が少ない。


 それでも、秋桜畑の傍にそっと置かれているベンチに座って、何気なく流れていく時間が、私は好きだった。


「こういうところが好きなの?」


 今日は見事な邪魔が入るけれど。


 高城君は私の隣に座り、深呼吸をする。


「こんな静かな時間の過ごし方も、素敵だ」


 それは私に取り入ろうとして言われたものではなかった。

 その感じ方をしてくれたのが嬉しくて、笑みがこぼれたのがわかる。


「高城君の周りはいつも慌ただしいものね」


 私に名前を呼ばれたことに、高城君は驚いたらしい。
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